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第7話:領地の勉強

(まずは公爵家のことを把握しなければ)


 朝食をノエルと共にし、子守の侍女にノエルを預けると、ステラはさっそくケンドリックを呼んだ。


「おはようございます、奥様。なんなりとお申し付けください」


 びしっと胸に手を当てた赤毛の執事の頼り甲斐のある言葉に、ステラは微笑んだ。


「領地の収穫物と取引内容を知りたいわ。帳簿と事業報告書を見たいのだけれど」

「かしこまりました。書斎にお持ちいたします」

「い、いいの?」


 あっさり重要な書類を見せてもらえることに戸惑ったステラに、ケンドリックが微笑む。


「旦那様から許可をいただいております。特に隠すようなことはないから、と」

「そう……」


 ローワンはステラが領地や家政に関わることを望んでいないようだが、特に排除する気もないようだ。


 ケンドリックが書斎に運んでくれた書類に、ステラはさっそく目を通した。


「とりあえず、十年分の帳簿と事業報告書をお持ちしました」


 ステラは渡された書類に目を通していく。


(だいたい、想像どおりね……)


 農作物や肉などの生産量も潤沢だが、やはりアトキンス公爵家が抜きん出ているのは産出した鉱物の量だ。


 公爵家の収入の七割が魔宝石を含む鉱物の取引によってもたらされている。


(鉱山が五つあって、どれも安定した供給量があるし、魔宝石もとれる)


 魔宝石とは魔力を帯びた宝石のことを言う。産出される宝石の一パーセントほどを占める稀少な存在だ。


 そして魔宝石は今や、生活必需品となっている。

 調理や入浴に使うファイアストーン、照明器具に使えるライトストーンなどが裕福な貴族の家では当たり前に使われている。


 そして、特有の強力な魔力を秘めた『特別魔宝石』――ステラが持つ指輪のような魔宝石は貴重で大金で取引される。


 十年間の利益の推移を見ていたステラは眉を寄せた。


(年々、売上高が減っているわ……)


 もちろん、家が傾くほどではない。だが、明らかに毎年のように売り上げが減っている。

 つまり、鉱物の産出量が減っているのだ。


(これは何か手を打ったほうがいいんじゃないかしら)


 ステラは魔宝石の内訳を見て驚いた。


「あら……魔宝石の原石を加工せずに商人に売っているの?」


 魔宝石の本来の力を発揮するには、原石から力を引き出す必要がある。

 フラワリングと呼ばれるその技術は才能ある者しかできず、『魔宝石師』の資格が必要だ。


「魔宝石師は?」


 原石をそのまま売るよりも、フラワリングして価値を引き出してからの方が高く売れる。


「それが……我が領地には魔宝石師がいないのです」


 ステラは耳を疑った。


「こんなに魔宝石が取れるのに専門家を置いていないの!?」

「先代の時に魔宝石師を一人雇っていましたが、先代と揉めて出ていってしまわれて……その後は新たに魔宝石師を雇うことはなく今に至ります」


(こんなに鉱山を持っているのに、専門家を置いていないなんて)


 ステラは信じられない思いで書類を見つめた。


 これまで見た資料を見る限り、豊富な資源にあぐらをかいて、何ら工夫をせずに唯々諾々と領地経営を続けているように見える。


(そんな無能な方には見えないけれど、なぜ減収に対応しないのかしら?)


 いろいろ気になることはあったが、まずは魔宝石についてだ。


「なぜ、ローワン様は魔宝石師を雇わないのかしら?」


 腕のいい魔宝石師は少ないが、その気になれば一人ぐらい雇えるはずだ。


「私には……わかりかねます」


 珍しくケンドリックが言い淀んだ。

 忠実なケンドリックが言えないのであれば、無理に聞き出すのは信頼関係を壊しかねない。


(逆にチャンスかも)


 魔宝石の専門家が不在ということであれば、自分の力が役立つかもしれない。


(ただ、私自身鉱山に行ったことはないし、いわゆる魔宝石の原石も触れたことはない)


 もちろんフラワリングもしたことがない。


(形見の指輪の力を使えるだけ。実際に行ってみるしかないわね)


「ケンドリック、私鉱山に行ってみたいのだけれど」

「視察ですね。了解致しました。どちらの鉱山がご希望ですか?」


「そうね。一番魔宝石がとれる鉱山は? そこにするわ」

「エステル鉱山になります。では、ご準備いたします」


 そのとき、ステラはいい考えが浮かんだ。


「そうだわ! ノエルも連れていっていいかしら?」

「ノエル様は今、家庭教師の授業を受けていらっしゃいますが……」

「五歳なのに家庭教師がいるの!?」


 ステラは驚いたが、公爵家ではそれが当たり前なのかもしれない。


「五歳なんだし、みっちり勉強しなくても……。早めに切り上げるとかできないかしら?」

「それは家庭教師に聞いてみませんと……」

「わかったわ、交渉してみます!」


 ステラは意気揚々と勉強室へと向かった。


(ノエルはきっとあまり外に出してもらっていないはず。いい気晴らしになるわ)


 ステラはウキウキと勉強室のドアをノックし、ドアを開けた。


「何度言ったらわかるんです!!」


 激しい罵声とともに、びしっという鞭の音が響いた。

 ステラは目を疑った。


 小さな手を赤く腫らし、目に涙を浮かべて立っているノエルが見えたのだ。

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