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第5話:継子

「では、さっそく階下の者に紹介しましょう」


 ローワンがベルを振り、執事頭と侍女頭を呼んだ。


「クーパー、モンゴメリ、改めて公爵夫人となったステラだ。よろしく頼む」


 ローワンの言葉にふたりが頭を下げる。


「奥様、どうぞよろしくお願い致します」

「何かございましたら、遠慮なく」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


 ステラも慌てて頭を下げた。

 さっそく呼び方が『奥様』に変更された。ステラは身が引き締まる思いで顔を上げた。


「何かあれば、このふたりに相談してください。私は多忙であまり屋敷におりませんので」


 ローワンがちらりと背後に視線をやる。


「屋敷を出るときは、このケンドリックをお連れください。若いですが役に立つでしょう」


 後ろに控えていた執事服を着た赤毛の青年が進み出た。

 すらりとした敏捷そうな体躯と、爽やかな笑顔が印象的な青年だ。


「奥様、初めましてケンドリックと申します。領地の案内や護衛を担当します。もちろん、お屋敷内でもお気軽にお声がけください」


 ケンドリックはまだ二十歳くらいの青年だが、落ち着いたその様子から頼れる執事だとわかる。

 護衛も兼ねていることから、きっと腕も立つのだろう。


「よろしくね、ケンドリック」


 紹介が終わると、ローワンが立ち上がった。


「これで今からあなたは公爵夫人です。長旅でお疲れでしょう。よく休んでください」

「ありがとうございます」


 ステラは執務室を出ると、ふうと息を吐いた。


(緊張したけれど、なんとか自分の言いたいことは言えたわ)

(私にはあまり関わってほしくなさそうだけど、とりあえず自由にさせてくれるみたいね)


 誓約書の条件を(かんが)みるに、寝室も別でいいだろう。


(妻としての義務もなさそうだし、よかった)


 心が通じ合っていない人と寝室を共にしなくていいのはありがたい。


「奥様、ご夕食はどうなさいますか? お部屋にお運びすることもできますが」


 ケンドリックが背後から声をかけてきた。


「えっ、食堂で皆で食べるのよね?」


 ケンドリックがすっと目を落とす。


「その……旦那様はいつも自室で一人でお召し上がりになられるので」


 ステラは目を見張った。


「じゃあ、ノエルは?」

「ノエル様はいつもお一人で食事を取られます」

「そんな!」


 信じられない。五歳の子どもが一人で食事をするとは。

 気づけば、勝手に口から言葉が出ていた。


「私、ノエルと食べます!」

「かしこまりました」


 感情のまま発言してしまったステラはハッとした。


(私、出しゃばりすぎかしら)


 屋敷に嫁いできた初日から、継子に関わりすぎかもしれない。


(ううん、私は公爵夫人なんだから!)

(そう、ノエルの継母になるのよ。でも、なんでノエルにちゃんと紹介してくれなかったのかしら)


 ローワンはノエルを家族の一員として考えていないのかもしれない。


(実子ではないにしても、実の甥っこなのに)


 ステラはノエルの寂しそうな顔を思い出した。



 食堂に案内されると、広々としたテーブルの隅っこにノエルがちょこんと座っていた。


 ステラはドキドキしながら、ノエルの隣に座った。


「さっき庭で会ったステラよ、覚えているかしら? ローワン公爵と結婚したの。あなたのお義母様よ。食事をご一緒してもいい?」


 ノエルの顔をのぞき込むと、こくんとうなずいてくれた。


「仲良くしてくれると嬉しいわ」


 笑顔を向けると、ノエルが照れたようにきゅっと唇をとがらせた。

 食堂はゆったりしていたが、二人にはあまりにも広すぎて冷え冷えする。


(この子……まさかずっと一人で食事を取っていたの?)


 毎日ひとりぼっちでご飯を食べるノエルを想像し、胸が痛んだ。

 よく考えると、自分と同じ継子という立場だ。


(お父様が亡くなって家族で食卓を囲むことなく私も一人で食事を取るようになったけど、私は十五歳だったし寂しさに耐えられたわ)

(でも、この子はまだ小さい……甘えたい盛りなのに)


 二人分のスープがしずしずと運ばれてくる。


「じゃがいものポタージュです」

「ありがとう」


 さっそく口をつけると、丁寧に下ごしらえしたスープはなめらかで美味しかった。

 何より温かくてホッとする。


 ステラはちらっと隣のノエルに目をやった。

 一生懸命スプーンを口に運ぶノエルが愛らしい。お腹がすいていたのだろう。


 次に運ばれてきたのは、肉料理だった。フォークとナイフで肉を切り分け、ステラは口に運んだ。


「ん……これも美味しいわ」


 肉には焼いたにんじんとキャベツが添えられている。

 さっと塩を振っただけだが、野菜のうまみがしっかり感じられて美味しい。


 食べ終えたステラは、ノエルに視線をやった。

 ぎこちなくフォークをつかいながら食べてはいるが、にんじんが全部残っていた。


「もしかして、にんじん苦手?」


 声をかけると、ノエルがこくんとうなずいた。


「でも、にんじんって体にいいのよ。少しだけ食べてみない?」


 ステラはそっと皿の上のにんじんを小さく切った。


「お肉にかかっていたソースをつけたら味がわからなくなるわよ。一口だけ頑張って」


 そう言うと、ノエルが思い切ったように小さく切ったにんじんを口に運ぶ。

 数回噛むと、目をつぶってごくん、と飲み込んだ。


「えらいわ! ノエル!」


 ノエルがこくこくと水を口に運ぶ。かなり味が苦手なようだ。

 頑張ったノエルに、ステラは微笑みかけた。


「ねえ、ノエル。ご飯のあとはどうするの?」

「……部屋に帰る」


「部屋で何するの?」

「……おもちゃで遊んだり、する……」


 ノエルがうつむき加減でぽつぽつ話す。


「侍女が遊んでくれるの?」


 ノエルが首をぶんぶんと横に振った。


「ひとりで……」

「えっ、侍女は?」

「寝る時間になったら、着替えに来てくれる……」


 この広い屋敷の中で夜にぽつんと一人でいるノエルの姿が浮かんだ。

 それはあまりに寒々しい光景だった。五歳の子どもが置かれる境遇ではない。


 ステラはぐっと拳を握った。


(さすがに看過できないわ)


 食事を終えると、ステラはケンドリックを呼んだ。


「ローワン様にお話があります」

「かしこまりました。旦那様は今、私室におられます」


 ステラはすっくと立ち上がった。

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