第23話:そばにいる家族
夜になり、ステラは目が覚めた。
「ん……」
ベッドの脇に置かれた椅子にローワンが座っているのが見え、ステラはびくっとした。
「え? ローワン様?」
「起きましたか」
手にした本を閉じ、ローワンが静かな青い目でこちらを見る。
「体調は?」
「はい、だいぶいいです」
さっきよりずっと頭がすっきりしている。
額に手を当てられ、ステラはびくっとした。
大きな温かい手の感触にドキドキする。
(大人の男性の手だわ……)
ローワンがじっと顔をのぞき込んできた。
「うん。顔色もだいぶ戻りましたね。倒れたときは真っ白でどうしようかと思いました」
ステラは信じられない思いでローワンを見た。
「あの、ずっとついていてくれたんですか?」
「ええ。あなたがちゃんと寝ているか気になって」
驚いていると、ローワンがバツが悪そうに顔をそらせた。
「私は一応、あなたの夫なんです。妻の健康を心配するのは当然でしょう」
ステラはきゅっとシーツを握った。
(なんだろう……すごく嬉しい)
初めてローワンと夫婦なのだと実感する。
「それより、起きたなら水分を取ってください」
ローワンがテーブルに置かれた水差しから、グラスに水をついでくれる。
「ありがとうございます」
ステラは言われるがままグラスに口をつけた。
(まるで母親みたい)
ローワンの意外にもまめまめしい一面を知ってステラは驚いた。
「あの、工房で倒れている私を見つけてくれましたけど……もしかして私を心配して見に来てくれたんですか?」
「工房にこもったままのようだったので念のため」
ローワンが目を合わせずに言う。
(やっぱりこの人、心底冷たい人じゃない)
だが、何か理由があって人を遠ざけて壁を作っている。
(知りたいな。この人のことをもっと)
ローワンに対する距離がぐっと縮まった気がした。
過労で倒れたのは予想外だったが、悪いことばかりではなかったのかもしれない。
コンコンとドアがノックされた。
「なんだ」
ローワンが立ち上がる。
顔を出したのは、ノエル付きの侍女に選んだマリエルだった。
気立てがよく、大家族の長女で面倒見がいい少女だ。
「あの、すいません。奥様にどうしてもお会いしたいとノエル様が……」
「えっ、ノエルが!?」
慌てて起き上がろうとしたステラをローワンが鋭い目で見つめる。
「……少しだけですよ」
ローワンがクッションを持ってくると、起き上がったステラの背に当てる。
たたっという軽快な足音とともに、ノエルが駆け寄ってきた。
「ノエル!」
「おかあさま……っ」
ノエルの大きな青い目からボロボロっと大粒の涙がこぼれ落ちる。
(えっ、今私のことを『おかあさま』って呼んでくれた?)
驚くステラの元にノエルが飛び込んでくる。
ステラは反射的に大きく腕を広げた。
胸元に飛び込んできたノエルを包むように抱きしめる。
「ノエル、私は大丈夫よ」
ノエルがきゅっと服をつかんでくる。不安でたまらなかったのが伝わってきた。
「ごめんなさい、心配をかけて」
ノエルは病気で両親を失っているのだ。
きっと怖くてたまらなかっただろう。
(ダメね……私ったら。もっと気をつけなくては)
やりたいことが多すぎて夢中になってしまった。
だが、倒れてしまっては周囲に心配をかけてしまう。
ステラはそっとノエルの頭を撫でた。
「今日はここで一緒に寝ましょうか」
ノエルの顔がぱっと輝く。
「では、私はこれで。何かあれば枕元のベルで知らせてください」
そう言うと、ローワンが立ち上がる。
「あのっ……ローワン様」
思わず声をかけると、ローワンが振り返った。
「色々ありがとうございました!」
ローワンが冷ややかな眼差しで見つめてくる。
だが、もうその目にステラは臆することはなかった。
ローワンの隠された優しさを知ってしまったからだ。
それは白い雪に覆われた中、顔を出す雪割草のようだった。
静かだが力強い印象をしっかり与えてくれた。
「……当然のことをしたまでです」
ローワンが扉を閉めるときに小さくつぶやいたのをステラは聞き逃さなかった。
「おやすみなさい」
ステラはそっと同じ言葉を返した。




