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第21話:兄の工房

「仕事部屋?」

「はい」


 鉱山から宝石が運ばれることになり、魔宝石の鑑定をするための部屋が必要となったステラはローワンに相談することにした。


「どこか使われていない空き部屋はないでしょうか?」


 ローワンが切れ長の青い目でじっと見つめてくる。

 その表情からは、いつもながら何の感情も読み取れない。


 ステラは居心地が悪くなった。


(私が仕事をするのが嫌なのかしら?)


「空き部屋ですか……ありますよ。ご案内します」


 ローワンが引き出しから鍵を取り出したので、ステラは慌ててローワンの後をついていった。


「離れの部屋なので、庭に向かいます」


 屋敷を出て庭を通ると、小屋が見えてきた。


「ここです」


 ローワンが鍵を開けると小屋の中に入っていく。


「わあ……」


 小屋の中はちょっとした工房のようだった。

 壁際には棚がずらりと並び、中央には大きな作業机が置かれている。


 作業用のシンクも設置されており、鉱石関係の作業がしやすそうだ。


「すごい! こんな工房があるなんて」

「……兄が使っていた部屋です」

「えっ」


 ステラは驚いてローワンを見つめた。


(兄ということは……ノエルのお父様よね?)


「あの、お兄様は魔宝石師だったんですか?」

「いいえ」


 ローワンが工房を見渡す。


「兄は手先が器用だったので、宝石を加工したり細工したりしていたんです」

「そうなんですか!」


 領地の主要産業にぴったりの才能があったらしい。


「それで工具も置いてあるんですね」


 いずれ宝石に関する事業も立ち上げたいステラにとっては、願ってもない場所だ。


「あの、私が使ってもいいんでしょうか? その……大切なお兄様の工房を」


 おずおず尋ねると、ローワンが目を伏せた。


「このまま朽ちるより、誰かに使ってもらった方が兄も嬉しいでしょう。今後はあなたの工房として使ってください」


 ローワンが鍵を渡してくる。


「あ、ありがとうございます!」


 ステラは工房を見回した。


(これ……いつまで使われていたのかしら)


 ローワンの兄については謎が多い。

 本来長男が継ぐべき家督を弟のローワンが継いでいるのも不思議だ。


(しかも、宝石に関する才能があったのに……)


 ローワンがノエルに対して素っ気ない態度を取っていたので、てっきりローワンは兄と仲が悪かったのかと思っていた。

 だが、兄の使った工房をそのまま残している。


(いつか聞いてみたい。ローワンのお兄様、ノエルの父君のことを……)


 ステラはさっそく鉱山で採れた宝石を運んでもらった。

 選別されただけあっていずれも宝石として質が高い。その中から魔力を持ったものを鑑別する。


「思ったよりもあるわね」


 嬉しいことに、魔宝石が次々見つかった。

 いずれもさほど魔力が強くないし稀少でもなかったが、魔宝石には違いない。


「えっと、これはライトストーン、これはファイアストーン」


 よくあるタイプの魔宝石はすぐに能力がわかる。

 ステラは作業机の上で石を能力別に分けていった。


「……稀少な魔宝石はないわね」


 いずれも低級のよくあるタイプの魔宝石ばかりだ。


「そんなに都合よくいかないか」


 抗夫たちの給料を上げるためにはもっと貴重な魔宝石が欲しいところだが、欲張っても仕方ない。


 あっという間に時間が過ぎ、ステラは手を止めた。

 集中して鑑別しすぎたせいか、少し頭痛がする。


「あ、そういえばお礼状を書いていないわ」


 お茶会にさそってくれたヨシュアや同席した婦人たちに手紙を書くつもりだったが、すっかり忘れていた。


「もうお昼も過ぎている! ノエル、ご飯を食べられたかしら」


 ステラは急いで立ち上がった。


「あ――」


 ぐるっと世界が回転した。

 目眩(めまい)を起こしたのだと、次の瞬間わかった。


かろうじてテーブルに手をかけ、床に倒れ込むのは避けられた。


「う……」


 一気に視界が暗闇に閉ざされ、ステラはゆっくりと床に倒れ込んだ。

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