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第19話:ヨシュアの接近

「ヨシュア様!」

「いいんですか、こちらにいらして」

「皆さんともお話ししたくて席を外してきました。やはりこちらのテーブルの方が華やかで楽しいですね」


 ヨシュアがさりげなくステラの隣に座る。


 ステラはあっという間に空気が変わるのを感じた。

 皆、ヨシュアを笑顔で見つめ、わくわくした様子を隠さない。


(すごい存在感……愛されているのね)


 穏やかで朗らかな人柄も白皙(はくせき)の美貌も、人を引きつけて離さない。


「ヨシュア様はどこでステラ様とお知り合いになったの?」

「今回、ヨシュア様がご招待したんですよね?」


 興味津々のご婦人方に、ヨシュアがにこやかに答える。


「ステラさんは王宮に魔宝石師の試験を受けに来られたんですよ」

「えっ……」


 一斉にステラに目が向けられた。


「見事合格されて。僕は試験官を担当したんですよ。ね、ステラさん」

「は、はい」


 ステラがうなずくと、わっと場が沸いた。


「魔宝石師の資格を持ってらっしゃるの!?」

「すごいわ、才能があるのね」

「女性の魔宝石師の方って初めて!」


 夫人たちは心底驚いたようで、次々ステラに話しかける。


「ねえ、ウチにも魔宝石があるのだけれど、どんな力があるか鑑定してくださらない?」

「そういえば、ご領地は宝石の産地として有名ですわよね。いい宝石があったらご紹介していただきたいわ」

「え、ええ。私でお力になれることがあれば……」


 ステラは思わぬ依頼に頬を上気させた。


(貴族のご婦人たちも宝石や魔宝石に興味がおありよね。事業のとっかかりになるかも!)


 貴族の社交の重要性をステラは改めて実感した。


(まさか仕事の話に繋がるなんて!)


 ステラはにっこり微笑んだ。


「まだ嫁いだばかりなんですが、今後は事業もいろいろ広げていきたいと思っていまして。ぜひ助言などいただければと思います」

「まあ、楽しみね!」


 ご婦人方の好意的な声に、ステラはホッとした。


(これもご招待くださったヨシュア様のおかげね)


 ステラはにこやかに歓談するヨシュアに感謝でいっぱいになった。


 そのとき、白銀の長い髪の少女が駆け寄ってきた。

 五、六歳くらいだろうか。片手に白いウサギのぬいぐるみを抱えている。


(あ、もしかして……)


 ステラの想像は当たっていた。


「ヨシュア叔父様!」


 少女がぬいぐるみごと、ヨシュアの胸元に飛び込んでいく。


「アリーシャ! こら、危ないよ」


 そうたしなめつつ、ヨシュアの顔は緩みっぱなしだ。

 姪が可愛くてたまらないのが伝わってくる。


 慣れた様子でヨシュアに抱き上げられたアリーシャが甘えた声を出した。


「ねえ、お庭で隠れんぼしていいでしょ?」

「ああ、いいとも。だけどお庭の外に出ちゃいけないよ」

「はあい!」


 身軽にヨシュアの腕から下りると、アリーシャが子どもたちの方へと駆けていく。

 ヨシュアがさっと合図すると、メイドたちがさりげなく子どもたちの後についていった。


「大丈夫ですよ。ちゃんとメイドたちが見守っていますから」


 ヨシュアが安心させるように言ってくる。


「ええ。ありがとうございます。あんなに楽しそうに走るノエルは初めて……」


 幸い、ノエルは子どもたちに馴染めたようだ。

 他の子たちと一緒に歓声を上げて庭を駆け回っている。


(連れてきてよかったわ……)


「おやおや、アリーシャはノエル君がお気に入りのようですね」


 ヨシュアの言うとおり、ノエルはアリーシャと手を繋いで仲よさそうに走っている。

 そのとき、ノエルがつまずいて転んだ。


「ノエル!」


 慌てて駆け寄ったが、ノエルは笑顔ですぐに起き上がりまた走り出した。

 ホッとするステラの隣にヨシュアが並ぶ。


「はは! 元気でいいですね」

「ノエルはいつも屋敷で一人でいるから気になっていて。今日はこんな交流の場を設けていただいてありがとうございます」


「いえいえ。そうだ、定期的に子どもたちが集まる会を開きましょうか。また私の屋敷ででもいいですし」

「えっ、いいんですか!?」

「もちろん。アリーシャも喜ぶと思いますし、それに――」


 ヨシュアがそっと顔をのぞき込んでくる。


「あなたに会える口実ができますからね」


 さりげないヨシュアの言葉に、ステラはぎょっとした。


「お上手ですね」

「誤解しないでください。他の人にはこんなこと言いませんよ」


 ヨシュアが軽く片目をつむってくる。ステラはため息をついた。


「私なんて地味で面白みがないと思いますけど」

「あなたは原石ですよ」


 ヨシュアがにこりと微笑む。


「まだ見えない魅力を秘めている。まるでフラワリング前の魔宝石のように」

「本当にお上手ですね」


 ステラは感嘆のため息をついた。


 ご婦人方に人気があるのもわかる。

 一緒にいるだけで楽しいし、いい気分にさせてくれるのだ。


「軽い男だと思われるのは避けたいので、この辺りにしておきます」


 降参するように、ヨシュアが軽く両手を上げた。

 引き際も鮮やかで、女性慣れしているのが伝わってくる。


「こういうのは困ります」

「もちろん、あなたは公爵夫人だ。きちんと線引きはしますが――」


 ヨシュアの水色の目がすっと細められる。


「ローワン殿とは期間限定の契約結婚だという噂も」


 ステラは心臓が大きく跳ねるのを感じた。


「あなたが資格を取りに来たのもそのためでは? いずれは自立の道を、と」


 ヨシュアの精度の高い分析に胸がドキドキする。

 まるですべて見透かされているかのようだ。


 ヨシュアがふっと微笑む。


「あなたが自由になった時に選ばれる男でありたいですね」


 さらっと言ったヨシュアの言葉にステラは思わず目を剥いた。

 それはまるで愛の告白のように聞こえた。


「あ、あなたはいくらでも選べるのに……」

「あなたは本当にご自分の魅力に気づいていないんですね」


 ヨシュアが首を傾げた。


「試験会場であなたは不安に満ちた顔をしつつも、一歩も引かない意志を(みなぎ)らせていた」

「……!」


「あなたは自分で戦う道を選んだ。なかなかできることではありません。尊敬します」

「そんなたいしたものでは……」


 追い込まれて、ようやく動き出しただけだ。


「しかも、継子を可愛がってらっしゃる。愛情深い女性はとても魅力的だとだけ言っておきます」


 ヨシュアがにこりと笑った。


「ちなみに、私も子どもは好きですよ」


(百戦錬磨ね……)


 ずっと彼のペースだ。情熱的だが押しつけがましくないアプローチに舌を巻く。


(これって口説(くど)かれているのよね?)


 これまで恋愛に縁がなく、あまり男性と関わることがなかったステラは困惑した。


(嬉しくないわけじゃないけれど、今は自分の足場を確保するので精一杯)


「困らせるつもりはなかったんです。二人きりになれたのでつい本音が」


 ヨシュアが優雅な仕草で左胸に手を当てた。

 そのとき、甲高い泣き声が遠くから聞こえてきた。


「なんだろう。子どもが泣いている……?」


 ヨシュアが顔を曇らせた。


「行ってみましょう!」

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