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第18話:波乱のお茶会

 お茶会の日になり、ステラはノエルとローワンと共に馬車に乗った。

 早朝なので心配だったが、ノエルはちゃんと起きられた。


「楽しみね、ノエル」


 微笑みかけると、ノエルが頬を薔薇色に染めてこくんとうなずく。

 ノエルは緊張よりも期待感が勝るようだ。


「お友達、できるかなあ……」

「きっとできるわ! ノエルはとーーーっても可愛くていい子なんだから!」


 ステラはぎゅうっとノエルを抱きしめた。


「んー、私のマシュマロちゃん!」


 ノエルにキスを浴びせるステラに、ローワンが冷ややかな目を向けてくる。

 無言で腕組みをしているローワンからは何の感情も読み取れない。


(そういえば、三人で出かけるのって初めてかも)

(こうしていると、なんだか本当の家族みたい。いえ、家族なのよね)


 少しむずがゆいが、ステラは幸せな気分になった。



 昼過ぎにリンデル公爵領に着くと、すぐさまヨシュアが出迎えてくれた。


「ようこそ!」


 白銀の髪を輝かせ、華やかに微笑むヨシュアがまぶしい。

 ステラはスカートをつまんで礼をした。


「ヨシュア様、今日はお招きありがとうございます」


 にこやかに微笑むと、ヨシュアがステラの手を取った。


「いらしてくださって嬉しいです。ステラさん」


 そっと手の甲に口づけされ、ステラは慌てた。


「あっ、あの……」


 気づくとローワンがステラの傍らに立っていた。


(な、何かしら。圧を感じるわ)


 ローワンがにこりともせず、胸に手を当てる。

 

「歓待痛み入ります、リンデル公爵」

「どうぞ、ヨシュアとお呼びください。ご無沙汰しております、ローワン殿」


 そう言うと、ヨシュアがようやくステラの手を離した。

 ノエルに目をやると、ヨシュアが優雅に地面に膝をつく。


「きみがノエル? 初めまして」


 ヨシュアに顔をのぞき込まれ、ノエルが臆したようにステラのスカートの陰に隠れる。


「ノエル、今日ご招待くださったヨシュア様よ。ご挨拶をして」


 そっと頭に手を置くと、ノエルが思い切ったようにヨシュアを見つめた。


「こんにちは……」

「はは! 可愛いね。今日は僕の姪っこも来てるんだ。仲良くしてくれると嬉しい」


 ヨシュアが立ち上がって手を大きく広げる。


「もう皆さんお集まりです。どうぞ、庭へ」


 案内されたのは、庭園の真ん中にしつらえたテーブル席だった。

 もう既に貴族の面々が席に着いている。


「さあ、ステラさんはこちらへどうぞ」


 ステラは案内されるまま、女性たちのテーブルに着いた。


「ノエルはこっち」


 子どもたちは敷布を広げたスペースに輪になって座っている。


「いってらっしゃい。大丈夫よ、近くにいるから」


 ステラが優しく声をかけると、ノエルが思い切ったように敷布に上がった。


「お菓子や料理は好きに食べていいからね」


 ノエルに声をかけると、ヨシュアがローワンに微笑みかける。


「僕たち紳士はこちらのテーブルへ」


 ヨシュアに誘われ、ローワンも席に着く。


「皆さん、今日はお集まりいただき、ありがとうございます! 食事もお酒もたくさん用意してありますので、おしゃべりを楽しみましょう」


 ローワンの言葉に拍手が起き、お茶会が始まった。

 ステラはちらっとノエルを見ると、楽しそうにお菓子を手に取っていたのでホッとする。


「初めまして、アトキンス公爵夫人よね?」


 隣の女性に話しかけられ、ステラは慌てて居住まいを正した。


(そうよ、今日は社交の日。しっかりしなくちゃ!)


「ステラと言います。どうぞよろしくお願い致します」


 同席した夫人たちの興味津々の眼差しを浴び、ステラはぎょっとした。


「私たち、ずーーーっとあなたにお会いしたかったのよ!」

「ね! お話を聞かせて!」

「だって、あのローワン様の結婚相手なんだから!」


 夫人たちがうっとりした表情になる。


「あの高嶺の花のローワン様が選んだ女性ってどんな人かと気になっていたの!」

「そうそう。ヨシュア様と並んで憧れの独身男性だったから」


 意外な言葉にステラは目を見開いた。


「ヨシュア様って……もしかして独身なんですか!?」


 夫人たちが顔を見合わせドッと笑った。


「そうよ! 知らなかったの?」

「ね、びっくりするわよね。あんなに魅力的なのに独身なんて!」


 言われてみれば、出迎えも一人だったし、姪っこの話ばかりしていた。


「ローワン様は女性嫌いで有名だからわかるけれど、ヨシュア様は謎のままなの」


 動揺するステラを、夫人たちがにこやかに見守る。


「ふふ、可愛らしい方なのね、ステラ様って」

「これまで、社交界にいらしてなかったですもんね」

「だからどんな方か気になっていたの」


 どうやら顔見知りばかり集まるお茶会に新参者としてやってきたステラは、注目の的のようだった。


「ローワン様とは政略結婚って伺ったけれど……」

「はい。これまでお会いしたこともなくて」


 ステラはそっとカップに口をつけた。


「ローワン様って家ではどんな感じ? 外ではとても気安く声をかけられない雰囲気だけれど……」

「やっぱり奥様には優しいのかしら?」


 ステラはちらっとローワンに目をやった。

 特に微笑んではいないものの、他の紳士たちと会話を交わしている。


(彼も私のことを聞かれているのかしら)


「あんまり外での彼と変わらないかと」


 そう言うしかない。夫婦というより、自分たちはビジネスパートナーのようなものだ。

 ご婦人方がちらりとノエルに視線を向ける。


「失礼だけれど、あのお子様は? お二人のお子ではないですわよね?」

「髪と目の色はローワン様と同じだけれど、顔立ちが全然違いますわよね?」


「ノエルはローワン様の甥っ子なんです。兄夫婦が亡くなって養子として引き取ったそうです」


 ステラの説明に、ご婦人方は口に手を当て揃って驚きの顔になった。


「まあ、そうなの!」

「結婚したばかりなのにお子様がいらっしゃるからびっくりしたの!」

「いきなり継子がいるなんて大変よね」

「いえ! ノエルはとても可愛くて! 一緒に暮らせて楽しいです」


 ステラは心からそう言った。


「でも、実子が生まれたら世継ぎ問題が持ち上がるわよね」

「甥っこといえど、養子にされるなんて……」


 懸念を口にするご婦人方にステラは落ち着いて答えた。


「ローワン様にはお考えがあるのでしょう」


 ステラは微笑みを絶やさないよう気力を振り絞った。

 夫人たちの悪気がないのはわかるが、やはり自分たちだけでなくノエルについて言及されると身構えてしまう。


 幼くして孤立無援だったノエルをなんとか守らねばと思ってしまうのだ。


「ノエルは同年代の子と遊ぶ機会がなかなかなくて……。今日は楽しみにしていたんです」

「そうよね、兄弟がいないとなると寂しいわよね」


 夫人たちが大きくうなずく。


「楽しそうですね、なんのお話しですか?」


 ひょこっと顔を出したヨシュアに、夫人たちの顔がぱっと輝いた。


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