第16話:ステラの報告
「は……?」
王宮で認定試験を受け、魔宝石師の資格を取得したと伝えると、ローワンの口がぽかんと空いた。
「あなたは……魔宝石師の才能があったんですか?」
ローワンのいきなり殴られたかのような驚きっぷりに、ステラは吹き出しそうになった。
「原石に触れる機会がなかったので、鑑定やフラワリングができるかは自信がなかったのですが」
ローワンが思わしげに顎を撫でる。
「書類にはそんなことは書かれていませんでしたが……」
「私自身、確信がないので誰にも言っておりませんでしたので」
ステラは困惑を隠さないローワンをじっと見つめた。
(宝石の記憶が読めるのは秘密にしておいた方がいいわね)
(思ったより、私に魔宝石師の才能があったことに動揺しているわ)
ローワンがどさっと椅子の背もたれに体を預ける。
「まさか魔宝石師になるとは……」
「何か支障でも?」
「いえ、そういうわけでは」
どうも歯切れが悪いが、機嫌を損ねたわけではなさそうだ。
「魔宝石師になれたので、ローワン様にご提案したいことがあります」
ステラはぎゅっと手を握り合わせた。
「差し出がましいとは思うのですが、鉱山の体制についてアイディアがあるので聞いていただけないでしょうか」
「鉱山?」
ローワンの顔が険しくなった。ステラはごくりと唾を飲み込んだ。
「年々産出量が減っているので、抗夫たちにやる気を出してもらうために、魔宝石の産出量によって褒美を出すのはいかがでしょう?」
ローワンが無言でじっと見つめてくる。
「魔宝石産出の利益に応じて臨時手当を上乗せするようにすれば、やる気が出て産出量が増えるのではないかと考えました」
使用人たちが不満を抱える理由の最たるものはお金だ。
実家の使用人たちから聞いた不満も、突き詰めると待遇よりも給金だった。
今の停滞した鉱山の空気を変えるには、思い切った施策が必要だ。
「支出が大幅に増えますが、それは私の鑑別とフラワリングで得た利益で十分賄えます」
「あなたが魔宝石師として働くということですか?」
「はい! ダメでしょうか?」
領地には魔宝石師がいない。
そして、ローワンはその不利益に対応していない。
何か忌避する理由があるのだろうかと、ステラは息を呑んで見守った。
「……わかりました。検討します」
部屋を出たステラは大きく息を吐いた。
(ローワン様、あまり興味なさそうだったわ)
(最初から違和感はあったけれど、この人は公爵家を発展させようという気がないのね)
(結婚もしたがらない。子どもを作りたくない)
(もしかして、自分の代で公爵家を潰したいとか?)
ローワンに聞いてみたいことは山ほどあった。だが、ステラはぐっと堪えた。
*
「魔宝石師か……」
ステラが部屋を出ていった後、ローワンは背もたれに体を預け天井を見上げた。
彼女を迎えてから、予想だにしないことの連続だった。
(ただの政略結婚で、こちらは何も望まないのだから優雅に遊び暮らせばいいのに)
「いったい何を考えているんだ?」
思わずそうつぶやいてしまう。
元より結婚するつもりなどなく、王命によってしぶしぶ選んだ妻がステラだ。
王が持ってきた縁談のなかで、最も怠惰で無能そうな令嬢を選んだつもりだった。
二、三年もしたら、何かしら理由をつけて離婚すればいい。
手切れ金を弾めば問題ないだろうと考えていた。
そう、自分がほしかったのはお飾りの妻。
なのに、彼女は来た初日から継子のノエルを気にかけ、すぐさま鉱山に足を運び、隠していた才能まで披露してきた。
しかも、自分の冷ややかな態度に恐れず、ズバズバ意見を言ってくる。
(この俺に向かって……。つくづく変わった女だ)
もちろん監視は怠っていない。
ケンドリックを始め、彼女の周囲にいる使用人たちから報告を受けている。
だが、今のところ彼女は公爵夫人としての責務を全うしようとしているだけだ。
(いや、それ以上か)
魔宝石師の資格を取り、停滞させている鉱山の宝石事業にまで手を出し始めている。
まさかそんな能力があるとは思わなかった。
(放っておいてくれればいいのに。なぜ、そんなに事業にまで関わりたがる?)
今のところ悪影響はないが、果たして信用していいものか。
身上調査ではただの引きこもりの令嬢で、特に怪しいつながりはなかった。
窓から夜風が強く吹き、ローワンの黒い髪を揺らせた。
(結婚しても何も変わらないはずだったのに……)
だが、今や肌で感じ取っている。
ステラという新しい風がすべてを変えていくのを。




