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第15話:勧誘

 ヨシュアが早足で近づいてきた。


「すごい才能ですね。資格試験を受けられたということは、魔宝石師として働くということですか?」

「ええ、そのつもりです」


「国家魔宝石師にご興味は? ご希望なら認定審査へ推薦しますよ!」


 思わぬ申し出にステラは驚いた。


「いえ、そんな雲の上の人たちの集まりに私なんて」

「あなたの力は充分その域に達していると思いますよ。もちろん、実績など必要ですからすぐにというわけでは……」


 興奮気味に話すヨシュアに、ステラは慌てて手を振った。


「あの過分な評価をいただき恐縮ですが、私、国家魔宝石師になるつもりはありません。少なくとも今は」

「理由をお伺いしても?」


「国家魔宝石師になれば、王宮に定期的に通う必要があります。会議や視察などの行事もあり、時には隣国へ派遣されることもあるとか」

「そうですね、忙しくはなります」


 ヨシュアがうなずいた。


 国家魔宝石師には高い手当が支払われ、名誉や地位も与えられる。

 だがその反面、王宮や議会の招集があれば対応せねばならないし、後進育成などやることは多岐に渡る。


「ですが、やり甲斐はありますよ。もしや、ローワン殿のご理解が得られないとか?」

「いえ」


 ステラは即答した。

 ローワンからは最低限の女主人としての仕事を果たせば、あとは自由にしていいと言われている。


(そもそも、ローワン様は私に興味がないわ)


「子どもがいるので、あまり領地を離れたくないんです」


 ステラの言葉にヨシュアが目を見張った。


「失礼ですが、確か、ご結婚されたばかりとか……」


 王国の大貴族、アトキンス公爵の結婚話はやはり知れ渡っているらしい。


「継子なんです。ローワン様が甥を養子にしていて。寂しがりなので、できるだけ家にいてあげたくて」


 ヨシュアの目がすっと柔らかく細められた。


「そうでしたか。今、おいくつなんですか?」

「五歳です」

「まだ甘えたい盛りですね。なるほど、可愛がってらっしゃるんですね」


「せっかくお申し出いただいたのに申し訳ありません」

「いえ、僕こそ焦って不躾なお話をしてしまいました。お許しください」


 ヨシュアがすっと胸に片手を当て、頭を下げる。

 そんな仕草一つ一つが優美で、思わず見とれてしまう。


「これからすぐに帰られるのですか?」


 一緒に並んで歩きながらヨシュアが話しかけてくる。


「いえ、キャンディを買って帰る予定です」

「え?」

「あっ、継子へのお土産です。渦巻き型のキャンディが欲しいと言われて」


 ステラが身振り手振りで伝えると、ヨシュアが微笑んだ。


「ああ、それでしたら。おすすめの菓子店があります」


 ヨシュアがポケットからメモを取り出すと、さらさらと店名と簡単な地図を書いて手渡してくれた。


「助かります!」


 王都のことなど何も知らないステラはホッとした。


「王都にはよく来るので、なんでも聞いてください。よかったら今度案内しますよ。お子さんを連れて遊びに来ては?」


「そんな、ご多忙でしょうに悪いです」

「いえ。楽しい時間は積極的に作っていくのがモットーなので。仕事はなんとかなります」


 ヨシュアが控え室の前まで送ってくれた。


「僕は姪っ子がいて、たまに遊ぶんですが可愛くて……。それで、王都のお菓子店やおもちゃ店には詳しいんです」


 こちらが気を遣わずとも自然に会話を進めてくれるヨシュアにステラは感嘆した。


(初対面で目上の方なのに話しやすい)

(美しくて才能があって優しくて女性にもてそう)

(彼の奥さんは幸せだろうけれど、気が気じゃないかも)


 ふっとローワンの仏頂面が浮かんだ。


(ローワン様もヨシュア様に負けない美丈夫だけど、恋人とかいなかったのかしら)


 ローワンは二十五歳だ。

 皆が振り返るような美しい男性で、地位も金もある。

 恋人がいなかったとは考えづらい。


(なんでその人と結婚しなかったのだろう……)


 改めて、ステラはローワンのことを何も知らないのだと痛感した。


「それではここで」

「送っていただいてありがとうございました」


 ヨシュアがいなかったら迷っていただろう。それぐらい王宮は広かった。


「またぜひお会いしたいです。ご連絡を差し上げても構わないでしょうか?」


 ステラは一瞬躊躇(ためら)った。


(私は一応既婚者だけれど、ヨシュア様もそれはご存知だし、魔宝石師の先輩としてお付き合いするのは大丈夫よね?)


 そして、おそらくローワンは気にも留めないだろう。


「はい。魔宝石や姪っ子さんのお話しをきかせてください」

「喜んで。ではお気を付けて」


 軽やかに去っていくヨシュアを見送ると、ステラは控え室に入った。

 椅子に腰掛けていたケンドリックが立ち上がる。


「どうでした?」

「合格したわ! 私、魔宝石師よ!」

「すごいですね! おめでとうございます!」


 いつもは冷静なケンドリックの顔が上気している。

 やはり、魔宝石師の資格を取るのは特別なことだとステラは痛感した。


(思い切って試験を受けてよかった……!)


「じゃあ、お菓子店に寄って帰りましょう」


 もうすぐノエルに会える。いい報告もできる。そう思うと胸が沸き立った。

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