第14話:第二次試験
試験官たちが戸惑ったように顔を見合わせる。
思わぬ事態に教室中にざわめきが広がった。
ステラはドキドキしながら事態を見守るしかない。
「困ったな」
「どうする……?」
試験官たちが顔を見合わせ話し合っている。
失格だと安易に断定するには、アトキンス公爵家の名前が大きすぎるのだろう。
試験官たちは当惑した様子を隠さない。
「念のため、国家魔宝石師の方に確認をお願いするか」
試験官たちがひそひそと相談を始めた。
国家魔宝石師とは、特別な力を持ち、王家や官僚たちから認められた者だけに授けられる資格だ。
そのため、国でたった七人しかいない。
(そんなすごい人が来るの?)
「ヨシュア様が確かいらしているはずだ」
受験者たちがざわめくなか、ステラは居心地悪く待つしかなかった。
しばらくして、ドアが開いた。
「どういうことだ? 魔宝石が二個?」
「はい、ヨシュア様にぜひ鑑定していただきたく……」
そんな会話とともに、一人の男性が教室に入ってきた。
「あっ!」
ステラは思わず声を上げてしまった。
ヨシュアと呼ばれたのは、試験前に助け船を出してくれた白銀の髪の男性だった。
「ステラ様、こちらは国家魔宝石師のヨシュア・リンデル公爵です」
「さ、先ほどはどうも。ステラ・アトキンスです」
(リンデル公爵……大貴族だわ。しかも国家魔宝石師なんて)
ステラが慌てて立ち上がると、ヨシュアが安心させるように微笑んだ。
「事情は伺いました。魔宝石を確認させてもらいますね」
ヨシュアがちらっと宝石に目をやる。
「透明な方は間違いなく魔宝石だな。こっちの青い石は……」
ヨシュアが青い石を手に取り、じっと目を凝らす。
(この方は視覚で見分けるんだわ!)
ステラはドキドキしながら、ヨシュアを見つめた。
「うん……わずかだが、魔力があるな」
「本当ですか!」
驚く監督官たちに、教室がざわめいた。
「ああ。微力すぎて普通の魔宝石師では感知できないだろう。だが、間違いない」
ヨシュアの太鼓判に監督官たちが緊張を解く。ステラもホッとした。
(よかった。私はちゃんと魔力感知ができていた)
「では、ステラ様は合格ということで……」
「ええ。よくこのわずかな魔力を感知できましたね」
ヨシュアがステラをじっと見つめる。
「……その指輪、魔宝石ですか」
ヨシュアがステラの右手の指輪に視線を移す。
ステラは反射的に指輪を隠すように手で覆った。
「は、はい」
「魔宝石を使いこなしているのですね」
ヨシュアが興味深そうにステラを見つめる。
「いろいろお伺いしたいですが、試験中ですのでまた後ほど」
ヨシュアがゆっくりと頭を下げた。
「こちらの不手際でお時間を取らせてしまいました。魔宝石協会を代表して謝罪致します」
「そ、そんなヨシュア様!」
深く頭を下げられ、ステラは慌てた。周囲も呆然としている。
まさか国で一、二を争う名門貴族で、なおかつ国家魔宝石師の資格も持っているヨシュアが、無名の女性に頭を垂れるとは思わなかったのだろう。
「今後、このようなことがないよう試験に使う石は国家魔宝石師がチェックするように致します。受験生の皆様も試験が中断してしまい申し訳なかった。二次試験には僕も立ち会います」
ヨシュアが部屋を出ると、一斉にため息がもれた。
容姿の美しさもさることながら、落ち着いた物腰や丁寧で優美な言動に皆圧倒されていたのだ。
「では、合格者の皆様はここに残ってお待ちください。すぐに第二次試験を始めます」
監督官たちが宝石を持って出ていったかと思うと、すぐに戻ってきた。
先ほど予告していたとおり、ヨシュアの姿もある。
ステラと目が合うと、ヨシュアが優しく微笑んできた。
(目が合うだけでドキドキするわ。ローワン様も美男子だけど人を寄せ付けない雰囲気がある。対してヨシュア様は華やかな魅力がある人ね)
家にこもっていたステラにとって、まぶしい存在だ。
(やっぱり王宮って華やかなのね)
「では、二次試験の説明を致します。皆様にやっていただくのは魔宝石の『フラワリング』です。ご存知かと思いますが、フラワリングとは『開花』と意味し、魔宝石の力を引き出す時に使われます」
試験官がすっと箱を取り出した。
「今から皆様にお配りするのは、月光石です」
ステラたちの前に小さな白い石が置かれる。
「月光石は光源となるライトストーン。最も身近な魔宝石の一つです」
監督官の言うように一番出回っている魔宝石が月光石だ。
ランプや蝋燭に代わり、安全で安定した光を灯してくれ、貴族や裕福な商人たちに利用されている。
「これはその原石になります。魔宝石の力を引き出し、月光石として光らせてください」
ステラはすうっと息を吸い込んだ。
(とうとう、魔宝石のフラワリングに挑戦する時が来たんだわ……)
ステラはフラワリングされた完成品である魔宝石を使うことはできる。
それは形見の指輪で検証済みだ。
だが、鉱山で必要とされているのは宝石の中から魔力のある石を選別する鑑別の力、更には原石をフラワリングして魔宝石として完成させる力だ。
(それができれば、役に立てるし、皆に認めてもらえるわ)
ステラはそっと原石に触れた。じんわりと魔力が感じられる。
(弱い魔力ね……試験用の原石だものね。そんなすごい魔力を秘めた高級な石が用意されるわけはないか)
ステラはドキドキしながら、ゆっくりと原石の魔力をたぐり寄せた。
(さあ、あなたの力を見せて……)
「できた!」
隣で歓声が上がり、魔宝石がほのかな光を発現している。
ステラはぐっと集中した。
(私も……できるはず!)
原石に触れている指が徐々に熱くなる。
(さあ、もう少し……!)
フラワリングという言葉が脳裏に浮かぶ。ゆっくり花のつぼみが開いていくイメージだ。
(ほら、もう咲けるわ)
原石の魔力が一気に放たれるのを感じた瞬間、目もくらむような光が教室内に放たれた。
「うわっ!」
「きゃっ!」
思わず目をつむったステラがおそるおそる見ると、目の前にある月光石が煌々とまばゆく光っていた。
隣の席の石が蛍の光くらいだとすると、ステラの石は太陽級だ。
「な、何今の……」
「何かが爆発したかと思った」
監督官や他の受験生たちが驚いたようにステラを見つめる。
皆の畏怖の視線が痛い。
「これは素晴らしいね。魔力を最大級に引き出している。僕たちが考えているより、この原石はポテンシャルがあったらしい」
ヨシュアが感嘆の笑みを浮かべる。
「ステラ様、合格です」
「ありがとうございます!」
「後日、資格認定証とバッジをお送りしますので」
ステラは頬が紅潮するのを感じた。
(やった! 私、魔宝石の力を引き出せた! 鑑別もできると証明されたし、これで事業の改善に役立てるわ)
ステラはわくわくしながら席を立った。
廊下に出ると、背後でドアが開く音がした。
「ステラさん、待ってください!」




