第13話:第一次試験
転送された先は元の部屋より広く、兵士が二人立っていた。
ケンドリックが胸ポケットから封筒を取り出し、兵士に渡す。封蝋を確認し、中身を読んだ兵士が頭を下げる。
「ようこそ、王宮へ。アトキンス公爵夫人ステラ様」
「あ、ど、どうも……」
どぎまぎしていると、ケンドリックがこそっとささやいてくる。
「王宮への扉の使用は事前に申請してありますので、ご心配なく」
「そ、そうなのね」
外部からの客人の管理は、城の防衛として当然だ。
部屋の外に出ると、別の待機していた兵士に案内される。
「では、ステラ様。試験の部屋へご案内致します」
「私は控え室でお待ちしております」
ケンドリックと別れると、急に心細くなる。
ゆったりした廊下、高い天井――見慣れぬ王宮は迷路のようだ。
もちろん、行き交う人々に知り合いもいない。
「あちらの部屋が試験会場になります」
兵士が示した部屋へと向かうと、ドアの前にいた試験官らしき男性が怪訝そうにステラを見た。
「あなたは?」
「私、試験を受けに来たステラ・アトキンスです」
「公爵ではなく、公爵夫人が?」
名簿に目を走らせた試験官がじろりと睨んでくる。
「何かの間違いでは? ここは遊びで来る場所ではありませんよ」
「私、魔宝石師になりに来たんです!」
「女性なのに?」
蔑むような言葉と表情に、ステラはカッとなった。
「女性も男性も関係ないでしょう? 魔宝石を使える力があれば!」
「では、証明してくださいますか? ここは皆、真剣に資格を取りに来ているんです」
試験官の言葉に、ステラはぐっと詰まった。
(宝石の記憶を読む力を知られたくない……どうしよう)
だが、ステラが今使えるのはその力だけだ。
「証明できないのであれば、帰っていただくことになりますが?」
ニヤニヤと笑う試験官のカフスが目に入った。
(ああ、あのオニキスのついたカフスに触れて――証明してやりたい!)
ステラが震える手を伸ばした時だった。
「何をしている」
凜とした声にハッと顔を上げると、思わず目を見張るような美しい男性が立っていた。
(白銀の髪に淡い水色の目……まさしく氷の貴公子だわ)
長身で均整の取れた体はまるで彫像のようだ。
鼻筋のとおった端正な顔は見とれるほど優美だった。
「ヨ、ヨシュア様! いえ、この女性が試験を受けたいと……」
「何か問題が? 受験者名簿に載っていないのか?」
「い、いえ……載っていますが」
「なら問題ないだろう」
ヨシュアと呼ばれた男性がドアを開けてくれる。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
優雅な所作に見とれながら、ステラは会場に入った。
部屋の中にはすでに十人くらいの受験生が机の前に座っていた。
自分以外、全員貴族の男性だ。
じろじろ見られ、ステラはぐっと拳を握った。
(堂々とするのよ、ステラ。魔宝石師になるんだから!)
ステラは空いている席にそっと腰掛けた。
試験前とあってか、ピリピリした空気が流れている。
ステラが緊張で体を固くしていると、ひそひそ声が聞こえてきた。
「なんで女が……」
「公爵夫人だってさ。どうなってるんだ」
ステラはそっとため息をついた。
(そうよね。女性の魔宝石師なんて聞いたことがない)
貴族社会では、女性は家政を担うのが一般的だ。
女性は基本的に家の中のことを取り仕切り、事業は男性任せだ。
(でも、中には仕事に向いている女性もいるかもしれないのに)
だが、彼女たちには機会が与えられない。
女性が事業に口を出すのを良しとしない男性は多い。
(私は運が良かっただけだ)
ローワンは冷ややかで素っ気ないが、ステラの行動を制限することはしなかった。
そのありがたみを改めて噛みしめる。
(このチャンスを逃さないわ……絶対合格してみせる!)
受験者の冷ややかな視線を振り切るようにステラは背筋を伸ばした。
試験官たちが入室してくる。
「では第一次試験です。まずは魔宝石の鑑定ができるかを試験します」
受験者たちの前に平たい箱と小皿が配られる。
「中には宝石が十個入っております。その中に一つだけ魔宝石がありますので、そちらを取り出し、皿の上に置いてください。制限時間は十五分です。では、始め!」
開始の言葉とともに、ステラは箱の蓋を開けた。
「わあ……」
キラキラ光る色とりどりの宝石がまばゆい。どれも純度の高い宝石ばかりだ。
一瞬見とれてしまったステラだが、すぐに鑑定に入った。
魔力感知のタイプは、だいたい五感で分けられる。
ステラのように触れて見分ける接触型がほとんどだが、魔力が目視できる視覚型や、匂いでわかる嗅覚型もいる。
ごく希に聴覚で感知する人もいるらしい。
味覚は今のところ存在していないそうだが、宝石を敢えて口に入れる人がいないせいもあるだろう。
ステラは丁寧に宝石に触れていった。
(これだわ)
触れるとほんのり熱のような魔力を感じる石がある。
ステラはすぐさまその透明な石を小皿に置いた。
(他は特に反応なし)
念のため、残った石にも触れていく。
(あら?)
ステラは最後に触れた青い石をじっと見つめた。
(微細だけれど、魔力を感じるわ……)
だが、試験官は『一つだけ』と言っていた。
(どうしよう。これも魔宝石だとは思うけれど……間違っていたら)
認定試験は不定期で、ある程度受験者が集まってからでないと行われない。
これを逃すと、いつ資格がもらえるかわからない。胸がドキドキしてきた。
(引っかけ問題なのかも。一つだけ、と言うのはフェイクで……)
(ううん、考えすぎかも。確実に魔宝石である石だけを選んだほうが無難かも)
だが、再度触れてみても、やはり青い石から微力ながら魔力が感じられる。
(力が弱くとも魔宝石だわ)
ステラは震える手で青い石をつかみ、小皿に載せた。
「時間です。手を置いてください」
試験官たちがチェックに来る。ステラの前に立った試験官が戸惑いの表情になった。
「皿に二つ載っていますが……」
「はい。どちらも魔宝石だったので」
ステラの言葉にざわめきが広がった。
「失礼します」
試験官が透明の石に触れる。そして、次に青い石に触れた。
「透明の石は確かに魔宝石ですが、青い石は魔力が感じられません」
「いえ! 微細ですが、魔力はあります!」
何度も確かめたのだ。ステラはきっぱりと言い切った。
緊張と不安で足が震えるのを必死でこらえる。
(どうしよう……やっぱりやめておいた方がよかったのかしら)




