第12話:魔宝石師の試験
翌日、ノエルと朝ご飯を食べるとステラはさっそく招待状の仕事に取りかかった。
ケンドリックに持ってきてもらったリストに目を通す。
「そうね、予備も含めて百通あれば大丈夫かしら。便箋を用意してくれる?」
ステラは華やかな花が描かれている便箋を選ぶことにした。
(直筆で書いて、最後には公爵家の封蝋を押して……時間がかかりそうね)
受け取った手紙の印象が、そのままステラの評価につながる。
(丁寧に一通ずつ書かないと。でも、なるべく早くお知らせしなくちゃ)
合間にノエルの侍女の面接などを行っているとあっという間に時間がたった。
夜になり、ずっと挨拶状を書いていたステラは伸びをした。
「うん、この調子なら数日で終わりそうね」
もう一つ、早急にやっておかなければならないことがある。
魔宝石師の資格を取ることだ。
仕事として魔宝石に関わるためには、この資格が必要になる。
それに、ステラ自身の能力を測る試金石でもある。
(それには王宮で行われる認定試験に合格しなければならない)
ステラは傍らで書類の整理をしているケンドリックに声をかけた。
「魔宝石師の次の認定試験はいつかしら?」
ケンドリックがすぐさま書棚から冊子を取り出した。
「来週の月曜日になります」
「私、それに参加するわ。旅支度の用意をお願い」
王都までは領地から馬車で三日ほどかかる。
ケンドリックがふっと微笑んだ。
「それには及びません、奥様。公爵家は特別に『王宮への扉』が設置されております」
初めて聞く言葉にステラはきょとんとした。
「魔宝石を使った特別な移動手段です。一瞬で王都へ移動できます」
「そ、そんな便利なものがあるの?」
魔宝石の多様な使い方に、ステラはわくわくてしてきた。
(いろんな魔宝石があるのね! ああ、やっぱり魔宝石についてもっと知りたい!)
*
「ノエル、行ってくるわね」
魔宝石師の試験の日、ステラはよそ行きの服に着替えた。
ノエルに出かけることを伝えると、寂しそうな表情で上目遣いで見てくる。
きっと一緒に行きたいのだろう。だが、遠慮して伝えられないのだ。
いじらしいその姿に胸がきゅっとなる。
ステラは屈むと、そっとノエルの肩に手を置いた。
「今日はお仕事だから、お昼を一緒に食べられないの。ごめんなさいね」
「……夜は?」
「夜には戻るから、一緒に食べましょう。ね?」
そう言うと、ノエルがこくりとうなずく。
だが、その顔は不安そうだ。
毎日一緒にご飯を食べているが、ステラとはまだ十日ほどしか一緒に過ごしていない。
いなくなっていまうのではないかと不安なのだろう。
ステラはそっとノエルを抱きしめた。さらさらの黒髪の顔をうずめる。
「ちゃんと帰ってくるから。そうだお土産は何がいい?」
ノエルがもじもじする。
「お菓子がいい……。ぐるぐる巻いた大きいキャンディ」
「渦巻き型のキャンディね。わかったわ。約束ね」
指切りをすると、ノエルの顔が少し明るくなった。
(連れていってあげられるといいんだけど、試験だから余裕がないわ)
ステラにとって、魔宝石の試験も王宮も遠い未知の世界だ。
小さい頃から社交をしている男性たちであれば情報交換ができるかもしれないが、ステラには教えてくれる人は誰もいない。
ぶっつけ本番ですべてを乗り切らなくてはならないのだ。
ステラは王宮への扉に向かうケンドリックの後に続いた。
「こちらが王宮への扉がある部屋です」
厳重な錠がかけられたドアの前には執事頭のクーパーもいる。
「ドアを開けるときは、二人以上が立ち会うことになっております」
大きな鍵で錠前を開けると、中には円陣が描かれた床があった。
「中央に立ってください」
ケンドリックと並んで円陣の中に立つ。
「これは魔宝石?」
円陣の端に黄色い石が固定されている。
「はい。空間移動の力があります。同じ石が王宮にも置かれています。こちらの石が道しるべとなります」
そう言うと、ケンドリックが屈んで石をコツコツと二回叩いた。
「あっ……」
一瞬にして、ステラは別の部屋に立っていた。




