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2話 学校の正体

放課後、園芸部の活動場所である温室の奥にある倉庫では華やかな香りが漂っていた。扉を開けているが、蝶や蜂は花に夢中で入ってくることはない。


「この青い飲み物……何ですか?香りは紅茶ですけど」


拓昌に飲み物を淹れてもらった椋が不思議そうに聞くと、拓昌は自信ありげな顔をした。


「"バタフライピー"じゃ!自家製じゃからちょいと酸っぱいがの……これを、こうすると……ほぅら!」


「すごい!色が変わりました!」


青いバタフライピーにライムを絞った瞬間、色が紫に変わった。


「バタフライピーは蝶豆って植物の花で出来ておるハーブティーじゃ。ほれ、あそこで育てておる」


指差す先には濃い青が美しい花が咲いている。


「酸性に近づくほど赤くなっていくんだよねぇ。でもむーくん、これガチで酸っぱいから砂糖入れたほうがいいよ」


解説してくれた芹は角砂糖を8個ほど入れた。それは入れすぎなのでは、と思うが……


「酸っぱ!」


確かに少し酸っぱかった。



「バタフライなんて名前が入ってるので、蝶が入ってるのかと思いました!昔、給食のポテトサラダに蛾を入れられたのがトラウマでって……あ、すみません……」


3人の視線を感じる。何を気持ちの悪いことを口走ってしまったのだろうか。


「……むーくんいじめられてたんだもんね」


「っ椋、そうなの?」


「うん……芹さん、麻兄から何か聞いたの?」


「まぁね。私が留年するのが決定して、むーくんが入学するのが決まった時、言われたんだよ。『椋を頼む』って」


手紙もメールも返してくれなかった麻が、あの警戒心の強い麻兄が芹を頼るとは。


「あいつも人に甘えることを覚えたもんじゃのう。守りたいなら自分で行動しないと、じゃのに」


「まあ私がラットの生き残りだからだろうけどねぇ」


「そうじゃのう……」


何の話かわからないが、場が暗くなったそのとき倉庫の扉を叩く音がした。


「ネズミの話ぃ?」


皆がその方向を見ると、癖毛で軍手をし、スコップを持っている女子生徒が立っていた。拓昌は手をぱちんと叩いて言う。


「おお!清良くん!今日は活動しなくていいんじゃよ、今日が歓迎会じゃから」


「えぇ〜!今日でしたっけぇ!?」


女子生徒は軍手とスコップをそこらへんに投げ捨て、ざっと土を払い、軽く手を洗ってから席についた。


「……キヨ?」


目の前に座っている芹が目を丸くし、勢いよく立ち上がる。


「ねぇ、キヨ!キヨだよねぇ!」


「ん〜?んん?せ、芹〜!?」


同じように清良と呼ばれる女子生徒も立ち上がり、芹の手を取った。


「やっぱりキヨだぁ!6年ぶり!?」


「そうよぉ〜!石長いわなが 清良きよら!覚えてるぅ!?」


「そぉらそうだよ!うわ〜!背ぇ伸びすぎじゃない?」


「167センチくらいかしらぁ?今度の身体測定も楽しみだわぁ。芹は……縮んだ?」


「刺すよ」


どうやら2人は幼馴染のようだ。偶然にも同じ高校に進学、同じ部活に入部ということで運命的な再会らしい。

皆でお菓子と紅茶を囲んで一通り話した後、僕は気になっていた話題を振った。



「そういえば麻兄の話の時……ラットとか生き残りとか言ってたけどなんの話?」


楽しそうにしていた拓昌と芹から急に笑みが消える。まずいことを聞いてしまったかと体中が脈打つのを感じるが、もうどうしようもない。また、嫌われたかもしれない——



「今も、だけど……生徒会とそれに反抗する生徒で大きな亀裂がある。この学校は生徒会に未来を預けてるんだ。生徒会の副会長、宇賀美和子は理事長の娘。対する私たちは裏切り者の"ラット"、ドブネズミみたいな扱いを受けてた」


意外にも芹は饒舌に話し出した。続いて拓昌も話に入る。


「芹くん以外のラットは4人。休学中が3人、芹くんと同じような留年生が1人、じゃ」


「なぁんで裏切り者って意味で"ラット"なのぉ〜!?こんなに可愛いのにぃ」


急に話しに入ってきた清良はポケットから何かを取り出した。なんとネズミだ。


「私の憑神つきがみ!ハツカネズミさんよぉ」


「ちょっとキヨ。あんま手の内は明かさないほうがいいよ」


あまり状況が掴めない僕の横で、羽衣の髪に蝶がとまった。


「こ、この流れだとバレちゃいそうだからいうね。私の憑神は蝶。たまに本物の蝶に私の憑神を紛らわせて飛ばすとね、色んな空気を感じられて楽しいんだよ」


と、にっこり笑う。ため息をつきながらも微笑む芹の眉は少し下がっていた。


「ところで、麻くんからも椋くんの憑神の話は聞いた事がないのう。どれ、身内だと思って教えてくれんか」


笑顔で聞いてくる拓昌、他の皆んなの視線も僕に集まる。僕は手に汗握り、口を開いた。


「……僕の、憑神は……」


そう、ここは憑神を操るものが集まる4年生の定時制高校。まだ僕はここで何ができるのかを見つけられていない——





僕は最初の授業を思い出していた。担当の先生が元気よく黒板を指差す。


「いいかい!この学校に来たみんなは、憑神を持ってる!発現方法は人それぞれ。ふとした瞬間に目の端現れる人もいれば、意識すると目の前に現れる人もいる。みんなは憑神様をコントロール出来るようになる事で、"霊験師"としての第一歩を踏み出すんだ!」


普通の教育、普通の学校に通っていた僕にはファンタジックなお話しすぎて理解が難しかったが、この学校に入学した人間には憑神という相棒のようなカミサマが付いているらしい。先生が言ったようにその姿を見るには何かきっかけが必要だ。一生見る事ができなければ……退学かもしれない。


「実際に!君たちは大丈夫だと思う!しかしな……しかしだ!おおよその毎年入学者数、大体200人!おおよその毎年退学者数、20人!6、7クラス中の1クラス近くは退学している!みんな、まずは来週からの授業で憑神を出せるよう頑張るんだぞ!」


退学者数が多いな。しかも去年の新入生、つまり今の2年生は極端に数が少ない。これが意味するのは——


「僕の憑神って何だろう……?このまま来週が過ぎたら……退学?」


たった数コマの授業に、僕の人生がかかっている。

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