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1話 入部決定

「おはようございます!みなさん、今日から楽しい高校生活を送っていきましょうね!まずはこのプリントを……」


僕にとって苦手な空気が流れている。小学校高学年から中学校卒業まで激しいいじめにあっていた僕はいつ人に絡まれるのかとビクビクしてしまっている。あぁ、ここでも自分を変えることは出来ないのか……


「……の……あの!」


「はい!?」


声がした真横を振り返ると、目を疑うような美少女がいた。しかも微笑んでいる。これは……何かしらの罠かもしれない。僕はさっと目を逸らした。


「ふふっ……頭、てんとう虫とまってるよ」


「え、て、テントウムシ?」


「待って!潰れちゃう、私取るね」


美少女の指先が、僕の頭の先に触れた気がした。逃がしてもらったてんとう虫が呑気に窓の外へと飛んでいく。


「あ……ありがとう。優しいね」


「全然!当たり前だよ〜……席、となり!よろしくね」


「う、うん!よろしくね。……僕は犬ヶいぬがせ むく


「私は赤染あかぞめ 羽衣うい!羽衣って気軽に呼んでね!」


見た目だけではなく、心も優しそうな子だ。僕は笑顔で話を終えた後、真っ直ぐに黒板を見た。学校生活では目立ちそうな子と連まない方が良い。今までに学んだことだ。そう、目立つ子とは関わりたく……



「ねえ椋くん!むーくん!むーくんってば!」


一通りのホームルームが終わったが、真後ろの席のタートルネックを着た女子生徒が椅子を蹴ってくる。なんだ?もういじめが始まったか?


「ハイ……あの、なんでしょう」


僕が振り向くなり女子生徒が顔を急に近づけてきた。


「うわっ!」


反射的に体がのけ反る。


「わ〜、、目とか犬ヶいぬがせ あさそっくり!むーくんの方がぱっちりしてるけど!」


「麻……!?えっと、麻兄あさにいを知ってるの!?」


知らない子から出た兄の名前に思わず食いついた。


「うん♪私占い師なの。むーくんの事なら大体何でも知ってるよ……?」


「う、占い師!?」


いくら特殊なこの学校でも、そんな人いるわけが無い。驚いているとその生徒はにやりと笑った。


「う、そ。私留年してて本当は2年生なのと、犬ヶ瀬麻とは少し関わりがあるんだよねぇ。仲良くしてくれるなら、これから色々教えるよ?」


怪しい提案だが、麻兄が今どのクラスにいるのか、どんな人物なのかは全く分からない。頼るしかないだろう。


「僕は犬ヶ瀬椋……」


「知ってるよぉ。私は雫目しずめ せり。下の名前で呼んでね」


「……了解!よろしくね、芹さん」



「あの……お話しに入っても大丈夫かな?」


優しげに会話に入ってきたのは羽衣だ。助かった。


「もちろん!」


「むーくん、態度が違う。やらしー」


「えっ、いやいや!隣の席で今日話してたら仲良くなれたから……ね?」


「ふふ、そうだね!良かったら芹ちゃんにも聞きたいんだけど、もう入る部活は決まった?」


入学早々だが、2週間後には所属する部活動を決めないと行けないらしい。1年間は部活動を続けるのがルールのようだ。僕は正直無所属が良いのだが、そうはいかないようだ。


「部活動ってこの1週間見学できるんだよね?」


「……そうだよ。私はもう入ってるから」


このインドアな雰囲気で部活動に入っているのは意外だ。


「そうなんだ!芹ちゃんは何に入ってるの?」


「生物研究部と園芸部……に入ってたけど、今は園芸部だけー」


「「2つも!」」


椋と羽衣の声が重なる。2人が照れくさそうにした瞬間を見逃さなかった芹は少し口を固く結んだ。


「2人とも、特に決まってないなら……」


芹が目潰しのようなポーズで2人を同時に指差す。


「ようこそ、園芸部へ」





園芸部、と聞かされた時は中庭を思い返してみたり、学校内の端々にある植木鉢を想像してみたりした。しかし芹に案内されたのは立派な温室。色とりどりの植物がある温室の他、奥の小部屋兼倉庫には古びた机とソファもあった。


「うわ〜!凄くきれいな場所だね!あ、ちょうちょ」


鼻の周りを飛ぶ蝶に羽衣が指を差し出すと、不自然なくらいにおとなしく蝶が指先に乗った。とても可憐な様子に目が離れなくなる。


「むーくんたらまた羽衣見てる。でもホントに別嬪さんだよねぇ、羽衣は。クラスの人も噂してたよ」


「えっ、いや、そんな事ないよ!」


キラキラした女子トークに、椋は思わず一歩下がる。その時だった。


「なぁぁぁああああ!」


大きな男性の悲鳴が温室に響いた。いや、温室の外まで響いていたのかもしれない。

慌てて椋が足元に目をやると、手袋を踏んでいた。手袋の先は花を咲かせた低木の下へと繋がっている。


「踏んどる踏んどる!それわしの手じゃ!」


「え、手!?すみませんすみません!」


足を退けると、すぐに手袋をした手は引っ込んだ。そして低木の向こう側に大きな人影が現れた。


「あ。たくまさんじゃん」


芹に"たくまさん"と呼ばれたその人物は背が高く、髪はオールバックにしており威圧感のある見た目をしている。しかし土だらけの服と手袋を見る限り、悪い人では無さそうだ。


「酷いぞ〜!根元に栄養を足しておったんじゃ。……と、君は?もしかして」


たくまさんが椋に顔を近づける。芹といいこの学校の人は距離感が中々に近い。


「犬ヶ瀬の椋くんかえ!?いやーっ、麻くんに似ておる似ておる!麻くんの方が目は死んどるけどのう!」


芹の情報と合わせてみても、今の麻兄は目が死んでいることが分かった。だがこの人も味方のようだ。


「僕、音信不通の麻兄と会うために学校に来たんです!」


「ほう。音信不通だったのか。彼にしては甘えた作戦じゃのう」


「甘えた……?」


「いいや、今は気にするな!紹介が遅れたが、わしは福来ふくらい 拓昌たくまさ!みんなから"たくまさん"って呼ばれてるから君たちもぜひ呼んでくれ!」


「たくまさん、この2人に園芸部のプレゼンを」


「2人とも入部希望か!」


「いえ……」


「いやっ、まだ」


「この園芸部は4か月に一度くらい、外に行くことができる!種や苗の買い出しがメインだが、流行りのカフェとかも行ける。全寮制の中で外出はめっちゃストレス発散になるんじゃぞ〜!」


「た、確かにそれはすごいです!」


すぐさま羽衣が反応した。


「それに水やりとか当番制じゃから、暇な生徒は奥の倉庫でおサボりパーティじゃ!」


「お、おサボり……!」


人に会うのが嫌な椋も反応した。


「あとはなんといってもこのわし!たくまさんが生徒会役員じゃからのう!ほぼやりたい放題じゃ」


「やりたい放題ではないでしょ。宇賀うが 美和子みわこの言いなりの癖に?」


宇賀美和子という人物名にハッとした顔で反応したのは羽衣だった。


「宇賀美和子……さんって、確か生徒会副会長の?」


「あれ、羽衣よく知ってるね?全校集会も、新入生歓迎会もまだなのに」


「えっと、去年の学校説明会の時に代表で挨拶してたの覚えてて!きれいな三つ編みの人だよね?」


「まぁそうだね。心は全く綺麗じゃないけどね」


「そうなの?」


芹は美和子の事が大分苦手なようだ。


「まあまあ!これで園芸部のプレゼンは終わりじゃ!どうじゃ。良かったら君らも園芸部に」


「入ります」


「椋!?」「むーくん!」


羽衣と芹が同時に反応する。


椋が即日で入部を決めたのには理由があった。入部理由その①拓昌が屈強なため周りの生徒にいじめられにくそうだから。その②おサボりパーティが非常に魅力的だから。その③これ以上人脈を広げたくないので早めに部活を決定したいから。以上だ。


「……じゃあ私も園芸部、入らせてください!」


「羽衣も!?」


予想外に2人同時の部員ゲットとなり、芹でさえ驚いた様子である。拓昌はひたすらに笑顔を崩さず、ここに宣言する。


「さっそくじゃ!明日新入生3人の歓迎会をしよう!」


「「「3人?」」」


「ちょっとたくまさん〜、私を数えてないよね?」


「うむ、芹くんは去年から世話になっておるからのう!新入部員はあともう1人おるのじゃ。明日は先輩はわしと芹くん以外の先輩はおらんかもしれんが……交流を深めようとしよう!」


僕は邪念で入部を決定したが、羽衣さんはなぜ入部を決めたのだろうか?もしかして!僕についてくるレベルの内向的な性格なのか……?静かに過ごそうと思っていた高校生活だが、これは周りを警戒しないと危なそうだ。

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