91.久しぶりの接吻
スザリオ伯爵邸の寝室に行くと、アベルが産まれてから伯爵は別室で休んでいるので、寝室には夫人とベビーベッドのアベルと乳母だけが居る。
1歳ぐらいになると子供部屋にアベルは移されるだろうが、この時期はまだ夜中に乳を上げたり、おむつを変えたりと手間がかかるので同室なのだろう。
一応乳母と言う役職の女性は居るが、乳は夫人があげている。
おむつは乳母が担当しているようだった。
その当の乳母は、少々離れた椅子に座って居眠りをしていて、夫人はベッドで寝ていた。
シルフィーナはガイにガッツリと後ろから腰を抱かれているが、全く気にする素振りもなくアベルのベビーベッドに近づく。
「アベル、アベル。私よ、シルフィーナよ」
上から覗き込むようにアベルの顔を見ると、目が開いていた、泣きもせず起きているのだ。
「アベル、起きてたの?私が分かる?シルフィーナよ」
アベルの緑色の目がシルフィーナを見た。
その瞬間、赤子に重なるように神霊体のアベルの顔が現れた。
胸から上だけの神霊体だが、しっかりおとなのアベルがそこに横たわっていた。
「アベル!」
「しるふぃーな、さま、おしたい、しています」
「アベル!大好きよ、アベル、会えて嬉しいわ、私のかっこいいアベル!」
シルフィーナは神霊体のアベルに接吻をした。
「しるふぃーな、さま、もういちど、せっぷんを」
アベルの要望に応えるように、何度も唇を重ねたが、神霊体のアベルはほんの1分程度で消えた。
赤ちゃんアベルは眠った。
「シルフィーナ様、アベルに会えてよかったですね」
と後ろから抱き着いたままのガイが言った。
「うんうん、アベル、アベル、大好きよアベル、沢山眠ってね、また明日会いましょう」
後ろから抱き着いてシルフィーナの肩に頭を乗せたガイの頭を撫でた。
「ガイ抱きしめて」
そう言うとガイの手が緩んでクルっと向きを変えたシルフィーナをギュッと抱きしめた。
「アベルに接吻出来たわ、10か月ぶりの接吻よ、嬉しい」
「はい、そうですね、きっとこれから毎日接吻出来ますよ」
そういうと嬉し泣きをしているシルフィーナの背中をガイは撫でてあげた。
そしてしばらくアベルの寝顔を見ていたが、ルーカスの方にも行かなくてはならないのでジャシス伯爵邸に飛んだ。
ジャシス伯爵邸もスザリオ伯爵邸と一緒で、寝室には夫人と乳母と赤ちゃんルーカスだけだった。
「ルーカス、ルーカス、こんばんは、私よ、シルフィーナよ」
アベルと同じように声をかけながらベビーベッドを覗いたが、ルーカスは眠っていた。
「ルーカスの神霊体はまだのようですね」
「そうね、ゆっくり待ちましょう」
そういうとこちらでも飽きもせず赤子の顔をずっと見ていた。
「ルーカス、また明日来るわね、沢山眠ってね、ルーカス、またね」
明け方にはスタニスラガの王城に戻った。
行きはガイと手を繋いでいたが、帰りはガイの腕が腰にガッツリ絡み着いたまま帰った。




