70.怒る女神
怒れる女神フローリアが執務室に入ってきただけで、空気が凍り付いた。
従者は神従の礼を取ったまま顔を上げることはできず、女神を連れてきたはずのジーンは壁際に尻込みした。
「お兄様、どうゆうことなのかご説明願えます?」
アレクシウスは、一歩引きたいのをプライドで堪えフローリアに事の子細を話して聞かせた。
「そもそものことの発端はお兄様とお兄様の神族があの子に女神の愛を強要したことではないですか!」
「ああ、そうだ、そのことは重々反省している、すまん」
「すまん?すまんで済ますのですか?あの子は眠りについたのですよ、そのまま100年でも200年でも起きない眠りについたんです。それは分かっておられます?」
「ああ、俺もそう思う、眠る前に時間を気にしなくてもいい、と言ったそうだ」
「アベルとルーカスが腹の中の今、このままあの子が目覚めなければ、この定着の計画は中止をしなければなりません。それもご理解しておられるのですか?」
「ああ、分かっている」
「あの子が起きないうちのアベルとルーカスが産まれたら、すぐに神霊体を回収するべきです。それもわかっているんですか?」
「ああ、あいつらはすぐに肉体を離れるだろうな」
「離れたら肉体に浮遊霊を入れさせるわけにはいかないので始末しなければなりません、そこまでお考えですか?」
「分かっている、だが、今はシルフィーナを目覚めさせる方が優先だ」
その言葉でフローリアは怒りを横に置くことにした、大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。
「お兄様、ガイにはシルフィーナを起こすなと言って出てきました」
まだ怒りが収まらないのでまた深呼吸をした。
「来週になっても起きないだろうから、神帝に神気をもらいに行く。お前も付いてくるか?」
「はい、ご一緒します。ですが、ガイが不安に思っているようです」
「ああ、お前からガイに説明してやってくれ。俺だったら警戒されるからな。あいつには中途半端な説明ではなく事のすべてを教えた方が良いだろう。余計な不安を取り除いた方が良い」
「そうですね、私から・・・」
フローリアの打ち震える様子をアレクシウスは見逃さなかったが触れなかった。
「来週、お前の城に俺が行く。その時にシルフィーナが目覚めていなければ神帝の所に行こう。ジーンその旨を神帝にお伝えしてこい」
「ええ!私が神帝に?」
不意に振られたジーンは、なぜ?私が?を顔に出して隠さなかった。
「使えぬな、キアに行かせる」
フローリアの冷たい一言がまた場を凍らせた。
「フローリア、とにかくこの一週間だ、あいつを見守ってくれ」
「言われなくてもわかっている!来週待ってるから、お兄様」
そういうとフローリアはまたもや場を凍り付かせ、本人は燃えるような怒りを纏わせながら執務室から消えた。
フローリアが自室に戻った時、幸い来客や女官が居なかった。
「フローリア様、ご無事で」
カイルが真っ先に声をかけた。
「皆、心配かけました。詳しくはまずはガイと話をしてからします。キア、もうしばらく私の体を預かっていて」
「かしこまりました、フローリア様」




