7.定着先
シルフィーナはアレクシウスにアベルの定着先をスザリオ伯爵家に決めたことを説明した。
「ルーカスはまだ決めてないの、良いお家あるかしら?」
アレクシウスは顎に手を当て少々首をかしげる。
まだ16歳の体には少々おじさん臭い仕草だが美少年なのでやはり絵になる。
「そうだな、伯爵家相当が良いな、・・・ミレーニス伯爵家は。。。」
「殿下、ミレーニス伯爵家ではまだ嫡男がおりません」
どちらかと言うと神族が定着した子が長子では困る。
なぜならば、子を成せないからだ。
仮に成したとして神の子を地上に下ろすわけにはいかない。
例え神従であってもだ。
「そうだよな・・・では、ジャシス伯爵家ならどうだろう?あの家は男が3人いる」
「分かりました、明日にでも見学に行ってきますわ」
シルフィーナは女官の体でお茶を飲む、借り物の体でも美味しい。
男ばかりの部屋へお茶の用意してもらったのであまり華やかなお菓子は無いが、彩の少ない焼き菓子でも久しぶりの地上での食事は美味しい。
「お前はどこへ定着する?俺の近くの方が良いな、兄君の子になるか?」
「ブフッ!」
「シルフィーナ様、大丈夫ですか!」
思わずむせてしまったのでシルフィーナの後ろに控えていたアベルとルーカスが慌てた。
「お兄様の子供に?お兄様まだ16歳でしょ?まだご結婚なさって無いのでしょ?長子は嫌よ」
兄が大声で笑ったが、グイドに外に聞こえるからと窘められていた。
「いやいや、俺の子ではない、俺の3歳上に王太子が居る、結婚をしているし、間もなく第一子も生まれる、次の子にどうだ?」
怒っていたシルフィーナが、ムスッとした顔に変わり、少し悲しげな表情に変わっていった。
少々考えて答えた。
「・・・私、長子は嫌と申しましたが、・・・この先に子供が見込めないお家があればそちらへ行きたいです」
神従たちはお互いの顔をお見合わせ、シルフィーナの真意が分からないようであった。
アレクシウスは柔らかい表情でシルフィーナの頭を撫でた。
「そうか、そういう家だと可愛がってもらえるな」
シルフィーナは立ち上がると女官の体のまま兄の膝の上に座り兄の首元にしがみ付いた。
体は他人の物でも仕草は愛らしい妹である。
「貴族でそういう家がある、モリエール侯爵家だ、主は32歳で見目の良い男だ、人望があるので近衛騎士団長を務めている、立場的に俺に近いのでやつの事情は知っている」
「確かご結婚して12年で未だにお子様に巡り合えないそうですが、夫人はとても子供を欲しがっているとか」
グイドも事情を知っているようで口を挟んできた。
「俺の目で見たところ侯爵の体に問題があるので子が出来ないんだ」
兄は神である、子の出来ない要因など見通せるのだ。
「いずれは親族から養子を取るか、侯爵家が消滅するか、だな。お前が子にならなくても消滅の可能性がある家だ」
シルフィーナはアベルとルーカスの方を見て少し考え、兄を見上げて言葉をつづけた。
「そのお家も明日見学に参りたいと思います」
女官に憑依したシルフィーナはこの国の王子たる兄神にそう言ったのだった。