5.兄神との再会
シルフィーナと神従たちは王都の中心にそびえる城へ向かった。
兄が住んでいる城とは言ってもかなり広い。
広大な敷地には政治の中心たる部署も有るし、軍事部門もある。
はたまた城を支える人材の宿舎もあり、離宮や庭園もある。
一体何人の人が働いているのかは分からないが、貴族邸宅前の人通りのことを思うとかなりの活気があった。
城の一角に森もあり、昼間から逢瀬を楽しんでいる男女が居た。
神としてはそういう場面は正直見学したい。
なぜならば、神だからだ、身内にエロスなるものも居たりする。
嫌いなものは神、人類、その他の動物にもいないだろう、たぶん。
と、誰に言うのでもない言い訳を考えてみたが、すぐに考える必要が無くなった。
「シルフィーナ様」
「ジーン、また見つかっちゃったの?」
先ぶれを言いつけた兄の神使がシルフィーナの後ろに控えていた。
「早速神の子供たちの逢瀬をご堪能の所ですが、アレクシウス様の執務室にご案内申し上げます」
「そうね、ここはとても広いし人も多いのでお願いするわ」
意外にも残念そうなそぶりもなくシルフィーナはジーンに付いて行くことにした。
兄の執務室は派手ではないが豪華な部屋だった。
造りはもちろん王宮なので華やかではあるがシックであった。
入り口を開けてすぐに兄の執務机があるわけではなく、神従、地上界では従者と呼ばれている神従が受付をする部屋があり、その隣に応接室があり、その奥に兄の執務机があった。
兄アレクシウスは執務室に居なかったが、とりあえず応接室にシルフィーナ、アベル、ルーカスは陣取り、ソファでくつろいでいた。
ガヤガヤと人の声が近づいてきた。
ドアが開き、数人の人間が話をしながら入ってきた。
先頭を歩くのは若き兄アレクシウスだが、その後ろに兄の神従と年かさのいった人間が数人入ってきた。
応接室のソファに座っているシルフィーナ達に兄は一瞥を与えたが、そのまま奥の執務室まで全員入って行った。
アレクシウスと神従以外の人間はソファに銀髪に紫の瞳の美しい女神が座っていることなど気が付くことは無かった。
「殿下、その日程ではとても調査し切れません、もう少し余裕が欲しいところです」
「調査に時間をかけていたら対応できなくなる、人数を増やしても速やかに実行するのが良い」
聞き耳を立てるまでもなくドアが開けっぱなしなので筒抜けである。
人間は応接室に誰も居ないと思っているので声の大きさに頓着はしていないようだが、アレクシウスはどうだろう?
シルフィーナにわざと聞かせているのかもしれない。
「16歳のお兄様、何だかかわいいわね」
「さようでございますね」
「神界でのお姿はもう少し、そうですね、人間で言う所の25歳くらいなのでしょう」
クスクスと応接室で話をしていても執務室に入った人間は誰も気が付かない。
人間にとって神霊体とは見えぬし、声も聞こえない。
「では殿下、そのように手配申し上げます」
「ああ、頼む」
「では、失礼いたします」
人間たちがシルフィーナの前を通り退出していった。
神従の一人ダーレンが人間たちを見送り、戸を締めて戻ってきた。
執務室からは兄アレクシウスともう一人の神従グイドが出てきた。
「シルフィーナ!よく来た」
兄は大きく手を広げて妹を迎えた。
「お兄様、お久しゅうございます」
と言うなりシルフィーナはアレクシウスに飛びついた。
片や実体、片や神霊体だが、4人の神従には神霊体同士で抱擁している神二柱が見えていた。