39.フラウ
日が暮れるころ、図書室は施錠されたが、女神は図書室に居座っていた。
誰も居ない、誰も来ないと言うことは、本が浮いていても益々気が付かれないので余計に快適に読書を進めた。
夜遅く、キアが様子を見に来た時にもシルフィーナは読書をし、ガイはやや後ろに控えたままだった。
「シルフィーナ様、どんな本をご覧になっているのですか?」
ふと本から目を離すとキアがのぞき込んでいた。
「キア、どうしたの?」
「フローリア様がもうお休みになったので、ご様子を見に参りました」
そういえば部屋が暗い、窓の外を見たら星空が綺麗だった。
「そんな時間なのね、今は、先日見た歌劇の元になった小説を見ているの」
「さようでございましたか、でもシルフィーナ様もそろそろお休みになってください、お部屋までお送りしますね」
キアに勧められたので、本を棚に戻し、あてがわれた部屋に戻った。
シルフィーナは宙に浮いて丸まるとすぐに眠ってしまった。
シルフィーナの無意識の結界が張られたので、それを覆うようにガイは結界を張った。
「ガイ、シルフィーナ様からお言葉はあった?」
キアが聞くとガイが首を振る。
キアはどうしようかと思ったが、やっぱりガイに教えることにした。
「ガイ、例の接吻だけど、あれは女神の神力が含まれているの。フラウと呼ばれる神力で、感謝の時にほんの少しだけフラウを入れるの」
「フラウ?」
「そう、フラウ。入れる効果はガイも体験した通りとても気持ちが良くなって体の力が抜けるの。感謝の気持ちを入れる接吻だから、欲しいと言われたら、感謝して欲しい、と言うことになるの。だから、おねだりをしてはいけない接吻なの」
ガイは俯いて右手を自分の口元に当てた。
「でもその件ではシルフィーナ様は少しムッとしたようで神従よりフラウ多めだったけど、それほどご立腹ではないと思うわ。それよりもガイがシルフィーナ様を見つけられなかった方がお怒りのような気がする」
ガイはハッとして、キアを見た。
「どうしても見つけることが出来なかった、神気を消されてしまうとシルフィーナ様に追いつけなかった」
ガイがフルフルと震え、絞り出すようにつぶやいた。
「あのね、私はずっとシルフィーナ様と一緒だったけど、神気も一緒に消したけど、シルフィーナ様は王都から一歩も出なかったの。城壁のすぐ横の森に入ったけど、あそこも王の狩場だから、王都の敷地なんだけど。シルフィーナ様はやっぱりガイに見つけて欲しかったんだと思う」
「・・・」
「もう遅いから、ガイもおやすみなさい、明日はきっと仲直りできるわよ、じゃあね」
キアが立ち去った後、ガイは宙に浮くシルフィーナを見つめた。
こんなに近くに居るのに触れる許可がないので触れられない。
呼びかける許可をもらっていないので、シルフィーナ様、と話しかけることも出来ない。
毎日抱っこして眠っておられたのに、今日は一人で休んでおられる。
手が、寂しい。心が、悲しい。
「シルフィーナ様、わがままを言ってしまい申し訳ございません。シルフィーナ様を見つけることが出来ず申し訳ございません。私はシルフィーナ様をお慕い申し上げております。私はシルフィーナ様を全力でお守りいたします」
涙がぽろぽろ零れ落ち、声が震えたが、気持ちを言葉にしたかった。
シルフィーナが薄く目を開いていたことにガイは気が付くことが出来なかった。




