137.ガイの望み
スタニスラガの王城へ戻ると、ガイが切り出した。
「シルフィーナ様、先ほどの逆悪戯ゲームの望みを考えました」
シルフィーナはガイとつないでいた手を離すとガイの正面に回り、両手を繋ぎなおした。
「そう、何にするの?」
ガイはじっとシルフィーナの目を見つつ真剣な面持ちで言った。
「来月、9月は、まだ定着しないでください」
「・・・その望みは却下よ」
「なぜ!」
シルフィーナは手を離し、ガイの頬を撫でながら言った。
「パパの準備が9月にはまだ整わないからよ。ガイが希望しようと物理的に9月は無理よ。だから違う希望を出しなさい」
明らかにほっとした顔をしたガイにシルフィーナもにっこり微笑んだ。
「でもね、早くて10月、遅くても11月に定着するわ。ガイ、前にも言ったけど心の準備はするのよ。10か月間私に会えなくてもきちんと仕事をするの。泣かないの。出来る?」
ガイの顔が一気にしゅんとしたがガイの言葉は意外にも前向きだった。
「まだ自信はありませんが、必ずシルフィーナ様のご指示通り泣かずに仕事を行います。定着10か月後にアベルとルーカスに確認を取ってもらってもお叱りを受けないよう頑張ります」
その後、ガイの要望は意外にも、ペンダントが欲しい、だった。
1か月後の9月、モリエール侯爵の準備はかなり良くなってきたがアレクシウスのお眼鏡にはまだかなわずだった。
10月になり、モリエール侯爵の準備はかなり良くなった。
しかし、シルフィーナは10月の定着を見送りたいと兄と姉に進言した。
定着は予定通り11月に行うことに決定した。
10月の後半、アレクシウスはラナダ王国のフローリアの誕生舞踏会に向けて出発した。
今年は去年に比べ、フローリアへのお祝いの品とラナダ王家へ進呈する品が特に多く馬車の行列も去年より多くなっていた。
これはフローリアの誕生舞踏会が終わると、フローリアがアレクシウスと一緒にスラニスラガにお妃教育のために婚儀に先立ち同行するからだ。
フローリアにとって自国での最後の誕生日を祝う舞踏会となる。
「お姉様、お部屋が何だか寂しくなっていますわね」
とシルフィーナはラナダ王国でアレクシウスの到着を待ちながら、フローリアの自室でお茶会をしていた。
「気に入ってるもので、すぐには使わないものを荷造りしてもらっているの。衣装もだけどサイズ的に去年の物は丈が合わなくなっていたりするので持って行くのはわずかよ」
説明を聞いてもシルフィーナの顔は浮かないままだった。
「私、ラナダ王国が居心地よかったので、なんだか寂しいですわ」
「ええ、私もそうよ。でもね、スタニスラガのお兄様の元でここよりも居心地よく過ごすつもりよ。あなたはすぐに定着することになるけど、歩けるようになったら遊びに来なさい。三柱で遠慮なくお茶会をしましょう」
三柱でお茶会と言う言葉はシルフィーナの表情を変えるには十分な威力があった。
「そうね、そのころには体を借りなくてもいいのよね。楽しみだわ」
「食べる量は減りますけどね」
といつも体を貸してくれるセムスが茶々を入れると、そこに会していた神族全員が大笑いしたのだった。
その中でガイは、シルフィーナにもらった紫水晶のペンダントをそっと触れた。




