1.神界
「お父様」
銀糸の髪をサラサラとなびかせ、紫色の瞳をキラキラ輝かせた女神シルフィーナは真っ白な空間にくつろぐ父神の元へ来た。
「そろそろ行くのか、シルフィーナ」
白髪、白髭を蓄えた偉丈夫は娘に話しかけると同時に白い空間を白い壁で覆った。
「ええ、フローリアお姉様から使いが来ました、あなたも早く降りてきなさい、とお誘いがありましたわ」
「フローリアか、あれは地上界に降りて何年になるかな?」
「まだ15年ぐらいじゃなかったかと思いますが、どうでしょう?」
シルフィーナの動きに合わせ、ふわ~っと銀の髪が踊った。
父神ゼウニオスはシルフィーナの美しい揺らめく銀糸の髪に青い目を細めて見入った。
「お前も地上界に降りると神界が寂しくなるが、これも神の務め、楽しんできなさい」
神は定期的に地上界に降り、人々の暮らしをひっそりと傍観する。
希に人前で神力を使うと、それを人々は『奇跡』と言う。
「供にはいつものを連れてゆくか?」
「はい、アベルとルーカスを神従に。神使にはガイを伴うつもりです」
「今回はどこへ降りる?」
「フローリアお姉様の所へ寄り道はしますが、スタニラスガ王国へ降りようと思っております」
「そうか、何かあれば神使をよこせ、無茶はするでないぞ」
「はい、お父様、それで行ってまいります」
シルフィーナの体が浮いたかと思うとふわりと姿をかき消した。
「あやつ、菓子に釣られたな、ふふふ」