09
台風が過ぎていった。
大きさに対して被害は少なくて済んだようだ、良かった。
私は佑介の事が聞きたくて、友香に電話した。
「友香、佑介って覚えてる?」
「覚えてるに決まってる。」
「じゃぁさぁ、彼がよく着ていたつなぎの色は?」
「ネイビーブルー!何?そんこと聞いて頭でも打った?」
「いや、この前の飲み会で誰も佑介の話しなかったからさ。」
「それはさぁ、あの頃のボロボロな奈央を知っているからじゃない?
当時は奈央までいなくなるんじゃないかと皆が不安だったんだよ。
だから佑介の話は自然とタブーになってた、私達の中ではね。
なんとなく今でも避けちゃうんじゃない?」
私は改めて仲間達の優しさに感謝した。
「そう言えば奈央自身もある日を境に、ばったりと佑介の話をしなくなったよね。」
「えっ!!いつくらいから?」
「う~ん。確か、佑介がいなくなって一年経ったくらい経った頃?
そうそう、ちょうど台風が直撃した後かな?ほら関西を直撃した大型台風。
大学が休校して土日明けてに行ったら、奈央が急に元気になってたのよ。
皆驚いて話したから覚えてる。」
「そう。」私の記憶が曖昧な時期もその頃だ。
「ねえ、佑介のその後って大学で調べられない?」
「何よ急に。個人情報だからね、どうだろう。」
「お願い!!そこを何とか!」
「う~ん、実家の場所くらいなら多分。」
「ありがとう!今度お礼するから。」
「期待しないで、絶対では無いから。」
電話を切った私は煙草に火を付けた。懐かしい佑介の匂い。
台風前の友香は『ネイビーブルーのつなぎ』なんて覚えてなかった。
台風後の友香は『ネイビーブルーのつなぎ』を覚えていた。
私自身も佑介のことを忘れていたり、急に思い出したり。
何かが変だ。佑介の存在が消えたり、現れたり?
まるで佑介が存在する世界と存在しない世界があるような?
そんな馬鹿な!!
今の私のマンションには佑介の写真や、スケッチ。佑介が存在した証が残っている。
でも台風前の私のマンションには、佑介が存在したことを指し示すものは何一つ無かった。
唯一の証は、この月桂樹のピアスだけ。
でも肝心な私はピアスのことを忘れていた。
その結果が指し示すのはパラレルワールド。世界が2つ?
一つの世界は佑介が存在し、もう一つの世界には佑介は存在しない?