07
一枚の作品の前で、私は釘付けになった。
描かれ女性はとても幸せそうに微笑んでいた。
その笑顔は幸福に満ち、描き手への愛に満ちた表情だった。
そうだ、この女性は私。描いたのは『佑介』。私の大事な恋人だ、恋人だった。
何故こんなに大事なことを忘れていたのだろうか?
私は親元を離れ上京し入学、日本画を専攻していた。
彼も同じように上京組で、気が付くと上京組の6人で遊ぶようになっていた。
佑介と私はたまたま同じマンションに住んでいたため、特に仲が良かった。
朝が苦手な私を佑介が起こしに来てくれて、一緒に大学へ行く。
佑介は私のせいで、連日講義室へ駆け込む羽目になっていた。
そんな私達が惹かれ合うのは自然なことだった。
しかし私は、同じグループ内で付き合うことに迷いがあった。私は頭でっかちなのだ。
佑介は違った、迷うことなく私に向ってきてくれた。
「そんなに考えたって意味無いよ。頭の中で考えることと実際起こる出来事は違うからさ。
起こってもいないことを考えて、目の前の幸せを見ないふりするの?」
ある日、佑介は「星を見に行こうよ。」と言って、私をバイクの後ろに乗せた。
しし座流星群が見頃の夜だった。
小一時間走っただろうか、周りに何も無く怖いくらいの漆黒の闇だった。
「奈央、上を見て。」見上げると、一面の星空だった。
「わぁ!!」私はそれだけ口にするのがやっとで、あまりの迫力に何も言えなくなっていた。
「俺は奈央と一緒に多くの感動で、心を震わせたいんだ。
奈央と一緒だと、きっと今までの限界を超えた感動に巡り合える!俺と付き合って下さい。」
そう言って彼は月桂樹の葉のピアスを差し出した。
「歪だけど、俺が作ったんだ、貰って欲しい。」
そうそれがこのピアスだ、自分の耳に手を当てる。
意味を調べると「永遠に変わらない」という意味があり、彼の思いが伝わって嬉しかった。
それからずっと身に着けている。
佑介はよくネイビーブルーのつなぎを着て、実習棟の前の階段で私が来るのを待っていてくれた。
私の姿を見つけると、笑顔で手を振って「遅いぞ!奈央」と言って笑った。
かけがえの無い存在だった。
一瞬で全ての記憶が鮮やかに蘇った。
それが大学3年の秋、私の目の前から突然姿を消した。
私はショックのせいか、彼がいなった後の記憶が曖昧だ。
でも、なぜ仲間達が佑介のことを話題にしないのか?
なぜ、つなぎの話をした時に覚えていなかったのか?