佑介
俺は頻繁な頭痛に悩まされていた。
痛み止めを飲んでその場をしのいでいたが、そのうち片目が霞むようになってきた。
その頃の俺は失明したらどうしようかと不安で、暇さえあれば奈央をスケッチしていた。
万が一見えなくなっても奈央を俺の脳裏に焼き付けておきたかった。
照れる奈央に拒否られたら、寝ている奈央をスケッチしたりもした。
でも奈央の笑顔を見ていると何故か安心できた。
いつの間にか俺の部屋は奈央のスケッチで溢れかえっていた。
帰省し病院を受診したら、脳腫瘍と言われた。
俺が心配したのは奈央のことだった、奈央の笑顔を守りたかった。
俺は悩んだ結果、姿を消すことにした。悲しますよりは恨まれる方が良いだろう。
悲しみから抜け出すより、恨んで見切りをつける方が容易い。
この頃には何となくの予感があったから、帰省する前に部屋は片付けておいた。
お蔭で引っ越しは奈央にバレることなく、すぐに終わった。
実家に戻ってすぐ奈央のスケッチを基に本画の製作に入った。
俺が感じた奈央を忘れないように、俺を見る奈央の笑顔を忘れないように。
俺自身の生きた証としての作品を残したかった。
奈央を描けば描くほど奈央のことが気になって仕方がなかった、そんなある日那月が訪ねてきた。
誰にも住所なんて知らないはず、俺は驚いた。
と同時に奈央のことが聞きたかった。元気にしてるだろう?
那月から返ってきた奈央の様子に俺はショックを受けた。
『時間が過ぎれば悲しみは、恨みに変り、俺を忘れてくれるはず』だと思っていた。願っていた。
それからの俺は奈央の様子が知りたくて定期的に那月に連絡した。
まさか結果、那月に告白され、脅されることになるとは思ってもみなかった。
完全に自分の甘さが招いた結果だ。
俺は公園のベンチに座って呆然としていた、いや途方に暮れていたのかもしれない。
そんな時、「ミー、ミー」とか細い鳴き声。見ると草むらで子猫が鳴いていた。
寒そうに震える体を抱き上げて言っていた。
「どうした?こんな雨の日に、迷子か?取り敢えず、俺の家に行こう。」
そう言って、胸に抱きしめ帰宅した。




