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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

レウクロコリディウム

 木に上りたい。


 先ほど彼女とお昼を一緒にして、それからケンカ別れをしてしまった。そのあとから、無性に木に上りたいのだ。


 彼女と食べたのはエスカルゴだった。食用のカタツムリだ。その時、彼女は話していたな。レウクロコリディウムという寄生虫の話を。今、思い出しても気持ちが悪い。


 彼女が話していた寄生虫は、カタツムリに寄生すると触覚の中に繭を作るらしい。それが、ぐにぐに動いて気持ち悪いのだという。想像したら本当に気持ちが悪い。なんでそんなこと聞かされなきゃいけないの? ねえ、なんで?


 そんな話をされたから僕は嫌味を言ってしまった。そのことで彼女は気分を害したらしく、お互いに汚い言葉を使ってしまった。彼女のことはケンカ別れした後も気になっているけど、今はそんなこと考えるよりも木に上りたい。無性に木に上りたいのだ。


 なぜだか分からないけど目が見えにくい。目の奥で何かが蠢いてるような感覚があって、不快。でもそんなことより、今は木を探してる。上るのに手頃そうな木を!


 ほどなくして、上るのに手頃な木を発見した。良いね。こういう木なら上るのにそれほど時間はかからない。それに、建物の二階くらいの高さまでなら届くだろう。


 二階くらいの高さに届いて……僕は何をやろうとしているんだっけ。いや、深く考えるのはやめよう。今は木に上ることができれば、それでいい。


 童心に帰りながら、木に上っていく。思っていた以上に、するすると上れて、気づいたときには木の上にいた。そこで僕は……何かを待っている。何を? 自分でも分からない何かを待っているのが不思議だった。


 たぶん私は今、本能的な衝動で動いている。私の? いや、それは違う気がする。じゃあ誰の?

 分からない。だけど、こうするべきなんだって思う。そんな強い気持ちで動いている。


 頭上でカラスが鳴くのが聞こえた。それを待っていたかのように、私の目の奥から、何かが突き破ってくる感覚があった。不思議と痛みは無く、むしろ心地良い!


 私の目を突き破った何かが、ぐにぐにと動いている。暗闇しか見えない……違う。そうではない。私は視力を失ったのだ。だというのに困惑も恐れもなかった。ただ、こうしなければ、という使命感がある。


 何かが、私の目から突き出たものを、ついばんでいる。私は補食されている。だというのに、達成感があって幸福だなあ。


 今は全てのことが、この幸福感と比べれば、どうでも良い。ただ一つ、私が思い返していることがあるとすれば。


 あのエスカルゴだ。あのエスカルゴも食べられる時は、今の私のような気持ちだったのかな?

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