先へ進むための
マレからは沈痛な表情はすでに消えている。
「じゃあまずは気楽にやりたいこと出してみよう! やれること、では無くやりたいことね」
普通の子達がするような、週末の予定を決めるくらいの気軽さと楽しさで、好き勝手にやりたいことを出していこう。
それが、この場限りの言葉だけのものになってしまったとしても構わない。楽しい未来を思い描く行為そのものが、明日を生き抜く力となるのだから。
でも、私は妥協するつもりはない。現実的には難しいものもあるかもしれないが、可能な限り実現させる。
「えーっと、ええと……やっぱりほまれちゃんと一緒に動画はやりたいなぁ。あとディズニーいきたい。カラオケも行きたいし映画も行きたい」
「うんうん、良いね。全部やろう。あとは?」
「スノボやりたい。キャンプ行きたい。海行きたい。温泉行きたい。スーパー銭湯でも良い」
「うん、行けるだけ行こう! 行けないところは次の楽しみにとっておこう」
「花火見たい。京都行きたい、舞妓で写真撮るのやりたい。水族館いきたい。ほまれちゃんがやりたいこともやりたい。ほまれちゃんのサンバ観たい」
「私のやりたいことかぁ。そうだねぇ、サンバ、マレと一緒にやるのは楽しいかも」
「さっき言ってたとりぱごみたいなやつ?」
「パゴーヂね。あとはそうだなぁ、マレが挙げたやつ以外でやりたいこと……あ、陶芸とバスケやりたいかなあ」
「陶芸とバスケ⁉︎」
そうやって言われるとなんかのエッセイのタイトルみたいだ。
「陶芸はなんか落ち着きそうじゃない? バスケは格好良いじゃない?」
別に得意とは言っていない。
遊びなのだ、むしろ下手なりにやって、失敗して、笑い合えたら良い。
「思っても居なかったけど、候補として挙げられるとなんだか楽しそうな気がしてきた。バスケならラウンドワンでできるよね。卓球とかもあるよ」
「だいぶたくさん出たね。あとは?」
「えっ、あと……うーん……あ、英国ロイヤル・オペラの日本公演観に行きたい!」
「よし、チケット取れるかわからないけど取れたらいこう!」
マレからバレエに関する「やりたいこと」が出てきた。
バレエへの意欲を削ごうとする、マレの中に芽生えていた「何か」は小さくなりつつあるのかもしれない。
チケット代はU29の席なら一万円だ。なんとかなる。
マレが本当に望んでいることなら。
私にとってもマレと一緒に遊べるのは楽しいことしかない。
日程のやりくりはどうにかなる。
配信で稼いでいるというマレより下手したら貧乏かもしれない懐事情も、バイトで歩合たくさん稼げば良い。
マレのための計画は、私にも妙な気合と高揚感を齎してくれた。