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要さん

 部活をしていなかった私にとって、要さんはほぼ唯一人と言って良い人間関係のある先輩だった。

 小学生の頃は年上も年下も友だちみたいな感じだったし、中学生に入っても先輩後輩の関係性を築いてこなかった私には、先生という立場ではない、近しい年頃の学生同士の間にある上下関係は目新しく、要さんが良い先輩だったということもあり、程よく頼り、教えを乞い、時には甘えたりもしていた。


 卒業した要さんは、母校に後輩の様子を見にくるようなタイプの先輩ではなかった。

 その上、これまでの生活圏からやや離れた大学に進学するにあたり通いやすい場所に引っ越しもしていたため、顔を合わせることはほとんどなくなっていたが、時折連絡は取り合っていた。


 大学の様子を教えてくれた要さん。

 進学先の相談に乗ってくれた要さん。


 いつしか、私の志望校は要さんが通う大学になっていた。


 いわゆる難関国立大に位置する大学だ。

 元々サンバの活動以外は勉強に費やしていたから、下地はあるつもりでいたが、それでもかなり努力した。

 三年生になってからはサンバも休会し受験勉強に取り組んだ甲斐もあって、要さんと同じ大学に通えることになった。


 合格の報告をすると、要さんは我が事のように喜んでくれて、お祝いの席を設けてくれた。


「私たち別に体育会系でもないし、大学に入ったらもっとフランクな感じでいかない?」


 そう提案されたものの、なかなか敬語を止めることができず、とりあえずお互いを名前で呼ぶことになった。


 大学は北関東にある。

 とは言っても都心から電車で乗り換えなしで一時間とかからない。通えなくはない微妙な距離だったが、家からとなると二時間近くかかる私は要さんを追うように一人暮らしを選択した。


 引っ越しやら新生活やら、その辺りのことも親よりも要さんに助言を求め、準備し実施してきた。



 今日の相談も、ひとつはその類のものだった。

 生きていく上で欠かせない、「お金」の供給源が今の私にはない。日々資金は減り続けているのだから、実は全く余裕を見せていられるような状況ではなかった。


 なるべく早めに収入源を確保する必要がある。

 だけど、仕事をコロコロ変えるのも効率が悪い。

 長く続けられる仕事が良い。

 収入が得られれば良いというわけではなく、支出を考えた上で、適した以上の収入でなくてはならない。


 なんでも良いわけではない。いくつかの条件を満たした仕事。

 簡単に見つかるイメージはなく、世間なれしていない私が簡単に選んでは失敗するような気がしている。

 できれば上下ではない関係性を望んでいる要さんではあるが、やはり一人での暮らしを二年に亘って成立させている先輩には一日の長があると思うし、お知恵をいただきたいところだった。

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