マレの妹
マレは未だ動画巡りをしている。時折私の顔を見ては、しきりに感心していた。
「やー、でも、ほまれちゃんがサンバかー。意外だと思ったけど見たら似合ってた。多分ダンサーやってても似合ってたと思う。ふーん、そっかぁ。サンバかぁ……最近流行ってるの?」
普通普通と言いつつ、パブに勤めてて、サンバチームに入っているってのは、一般的な大学生としてはやや珍しい部類かもしれないと、改めて思った。
自分のことって案外把握できていないものだ。客観的な言葉にして誰かに伝えることで見えてくるものがある。
マレはにこにこと動画を観続けている。
候補に別の動画が現れれば、積極的にそれをタップして閲覧している。その顔は物珍しそうながら、好意的な興味が現れていた。
私も、自分がその世界に身を置くまでは身近にサンバ関係者なんていなかった。
だから、身近な人がサンバを始めたら驚くのも、珍しさからくる興味が現れるのは理解できる。
でも、「流行っているの?」という感想は少し変だ。
「いや、なんか妹もやってるらしいんだよね」
マレには双子の妹がいる。
双子だがバレエはやらず、特に競技らしきこともしていないと言ったことは聞いたことがあったが……私が言うのもなんだが、サンバをやっている人に出会うことなんてあまり無い。確かに珍しい偶然だ。
マレとのやり取りであまり家族について言及されることは無かったが、それでも双子の姉妹については多少話題に上っていた。
そこではそんな話は出てこなかったから、最近始めたのだろうか。
親しい人を通して別のサンビスタに繋がっているなんて経験は今までほとんどなかったことを思えば、やはりこれは珍しい偶然だ。
「へぇ。ダンサー?」
「いや、楽器みたい。確か太鼓って言ってたかなぁ。ほまれちゃんと同じかも」
「太鼓って言ってもさサンバの楽器はたくさん太鼓の種類あるからね」
「そうなんだぁ」マレは妹とこの会話になったとき、あまり詳しくは追究していないようだった。それほど興味を持たなかったのかもしれない。
姉妹とはそう言うものなのだろうか。
そんな気もするが、そうでもない気もする。
姉妹それぞれによると言われればそうなのだろう。思えば、バレエを一緒にやっていた頃から、マレからは双子の妹に関する話をされたことはほとんどなかった。
「ねー、ほまれちゃん。ほまれちゃん自身で動画撮ったり配信したりはしてないの?」
「撮ってないなぁ」
「えー、もったいない。せっかく格好良い演奏してるんだから、配信とかありじゃない?」
考えたことも無かったけど、そういう楽しみ方もあるか。