表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/196

あの時の決意。今の決意

 優勝を勝ち取ったマレが、私に嬉しそうに話しかけてきた。「おめでとう」と言った私に、「ほまれちゃんもおめでとう!」と言ってくれた。私は胸元で抱えるようにしていた二位であることを示すトロフィーをそっと下ろした。

「次の」と言いかけていたマレを遮り、「ありがとう。でも、私のバレエはこの大会が最後なんだ」



 その時の、マレの驚いた顔を覚えている。

 その顔が、みるみる歪んでいったのも。



「なんで?」「怪我もしていないのに?」「家族が反対してる?」「嫌になっちゃった?」「バレエ楽しくないの?」

「一緒にって」「約束したのに」「なんで言ってくれなかったの?」「なんで」「なんで」「なんで」

「わたしのせい?」「二位なのにおめでとうとか言ったから?」「わたし無神経だった?」「なんで?」「なんで……」



 マレの中をたくさんの疑問と感情が駆け抜けていったのだろう。



 不意をつかれたことの驚き。


 裏切られたという想い。


 自分のせい? という不安と自責。


 大切に思っていたものを失う悲しみと喪失感と絶望感。




 まだ小学生のマレに、大きな瑕を残してしまうかもしれない。だけど私も実は余裕がなくなっていて。

 ただただ、「ごめんね」としか言えなかった。言ってあげられなかった。




 バレエを辞めた後も、マレは連絡をしてくれた。

 あの時、絶望した顔をしていたなんて気のせいだったかのように。

 私のことを恨んでいてもおかしくないのに、前と変わらない敬慕の情を込めたままで。




 私は私の後悔があるから。




 後悔なんて理由にせずに、この子のためにできることはなんだってしてあげたいと。そう思っていた。




「マレはいつまでこっちに居られるの?」



 マレの留学期間はまだ残っているはずだ。本来なら今日本にいることすらおかしい。

 その違和感の裏には、マレの中の何らかの事情がきっとある。



「んー、まあしばらくの間はいるよ」



 ほまれちゃんとどこか行きたいな! そう言う笑顔に陰りは無いが……。

 はぐらかしていることは、わかる。



「今日は一日大丈夫なんでしょ? いっぱい話そ。どこ行こうか? ゆっくり話せるところが良いよねー」



 とにかくまずはマレに好きなように話させよう。話して話して、吐き出して。その奥底に何か見えたら。

 その見えたなにかが手に届く位置に来るまで尚話させて、そして、そっとその何かを取り出してみれば良い。



 マレは「えー、うーん、どうしようかなー」と、屈託のない顔で考えている。

 その笑顔は私がかつて護れなかった笑顔だ。



 今回は。今回こそは。私は間違えない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ