相談相手
大学にはいくつか学食があった。
大半の学生が利用するフードコートのような学食とは別に、コーヒーよりも食事を目的にした常連を抱えているタイプの喫茶店のような雰囲気を持つレストランに入ると、学生にはあまり知られていないのか、客の姿はほとんどなく、目当ての人物をすぐに見つけることができた。
「すみません、お待たせしました」
「あー、いいよ。すぐわかった?」
「あ、はい。場所自体は分かりやすかったですから」
しかし、距離は遠かった。通常利用しない棟というのもあるが、そもそもこんなところに棟があることも認識していなかった。
私が入学したばかりだからと思ったが、フードコートタイプの学食の普段の混雑具合を考えると、ここは多くの学生にとって知られていない可能性の方が高いのではないだろうか。
「私も先輩に教えてもらったんだ。いいでしょ、ここ。落ち着くしうるさくないから話すのに向いてる」
しかも値段はフードコート学食と遜色ない。と、自分のお店のように自慢げだった。
確かに、私が頼んだ豚肉チーズ挟み揚げ定食は六百円だ。その上なんとごはんがお代わりできる。
「それで、相談って?」
先に来ていた彼女の前には既にカキフライ定食が提供されていた。
揚げたてらしいカキフライをサクリと噛みちぎり、少し熱そうに咀嚼しながら尋ねられた。
相変わらずこの人は話しやすい雰囲気を作ってくれるのが上手い。
「上杉さんは......」
「色部!」
「あ、えと、要さんは、今のバイトどうやって見つけたんですか?」
「『さん』もいらないんだけどな。まあ良いや。誉仕事探してんの?」
上杉さん、もとい要さんは、同じ高校の先輩だった。
一年生の時、委員会を部活に入っていない生徒に押し付けられ、激しいジャンケンバトルの末負け残った私は庶務会計委員になった。
部活動の部費の割り振りなども活動内容に含まれていた。部活に入っているというだけで特権でも持っているかのような連中を、少し見返してやろうなんて思いもあり、活動自体は嫌ではなかった。
三年生の庶務会計委員が要さんだった。
三年生は受験のため、活動期間は十一月までだった。主軸となる二年生に主業務を引き継ぎながら、一年生の教育を担当していた。
少々硬い印象のある名前の通り、きっちりしている先輩は面倒見も良かった。一方、時には破天荒な行動をとることもあり、学校にすらまだ慣れていない私ははらはらさせられることも多かったが、そんな体験も含めて楽しかった。
私はそんなに感情を表に出す方ではなかったが、要さんの前ではよく笑っていたと思う。
傍目からも、要さんに懐いているように見えていただろう。