入会を決めて。そして届いたメッセージ
手続きは殊更複雑でも特別でもないが、エスコーラに所属している者が別エスコーラに移籍する場合は、一応それぞれの代表同士で筋を通す儀礼がある。
特に浅草サンバカーニバルに参加するエスコーラ同士は、いろいろな場面で出会うことが多い。
強豪チームですら、メンバー集めは至上命題だ。ましてすでに機能しているパフォーマーは貴重な人材である。引き抜きなど露骨な動きをする者はいないと思うが、そう見られないようにするのも大事だ。
各エスコーラのメンバー同士で繋がりもあったりするから、謂れのない噂など立つ余地もないようにしておくことも、エスコーラそれぞれにとってもだが、なによりも転籍するメンバーの居心地にも直結する。
エスコーラを転籍するということは結構デリケートなのだ。
以前所属していたエスコーラの代表への連絡は当然自らするが、『ソルエス』代表への連絡や紹介など、祷さんが主だって動いてくれることになった。
もちろん、段取りを整えてもらったら、私が直接『ソルエス』の代表にも挨拶にいく。
それを経て、代表同士が筋を通してから、ようやく入会の手続きに入ることができる。
人や状況によっては2ヶ月くらいかかることもあるらしい。でも今回は祷さんによれば、比較的速やかに進みそうとのことだった。それは祷さんの手腕の影響もあるのかもしれない。
「よかったじゃん、誉」
笑顔の要さんに、背中をかるく叩かれた。
私の喜びを喜んでくれる要さんの存在も嬉しかった。
「はいっ!」
スルドは大きな音の鳴る楽器だから。
当然賃貸のアパートやマンションではなかなか鳴らす機会は恵まれなかった。
新生活に慣れるまで引っ越しに仕事探しにと、忙しさもあってしばらくは触ってもいない。
もう少ししたら、やっと鳴らすことができる。楽しみだった。
エスコーラの移籍が叶えば、翌月から早速通おう。
スルドは元々実家から持って来ているから身一つで行ける。
要さんの家が練習場に歩いて行ける距離なのはありがたい。同じエリアにあるバイト先からも行きやすいということでもある。
今は祷さんの言葉に甘え、手配に委ねさせてもらうことにした。
トークアプリで先ほど登録した祷さんとの画面を開く。
別れた後で御礼のメッセージを送り、返信は既にもらっている。
今送るべき言葉は無いが、祷さんとのトーク画面の背景を会談中にみんなで一緒に撮った写真に変える操作をしていると、画面の上にメッセージの受信を知らせる通知の小窓がポップアップした。
メッセージの冒頭部分が小窓に表示されている。
《久しぶり。元気だった? 来週日本に戻るよ。会いたいな》