基盤
入りたいエスコーラの目安はついた。
しかもそのエスコーラには同じスルド奏者で、私の目指すべき道を探すヒントになりそうな活動をしているメンバーがいる。
更に、そのメンバーは同じ大学の先輩らしい。
まずはその人をなんとか見つけて話してみたい。
その流れで『ソルエス』に入る段取りも進められたら良いだろう。
となると、その前に基盤を整える必要がある。
大学に入学し、一人暮らしを始めた。
新しい環境にも慣れてきた。
そういう意味では、生活は落ち着きつつあった。
しかし、それは新生活をスタートさせとりあえず回転させたに過ぎない。
回転を継続させられる基盤が作られているかは別問題だ。
私には取り急ぎ解決しなくてはならない課題があった。
キャッシュフローだ。
私と両親との関係は、悪いというわけではないが冷えている。
きっかけは私が両親の期待に沿わなかったこと。
私の人生だから。それが悪いこととは思っていない。
しかし、両親が「期待」に投資したお金や労力は安くも軽くもない。それが無駄になってしまったと考えれば、両親が私に手厚く扱わなくなったのも無理からぬこと。
自宅から離れた位置にある学校を選んだのは私。
それでも無理すれば通えるところを、きついからと一人暮らしを選んだのも私。
生活費の援助が受けられないのは仕方のないこと。
高校に入りスルドは始めたものの、それ以外に特にやることのなかった私は勉強に打ち込んだ。
中学の頃まで身を置いていたシビアな世界に比べれば楽なものだった。
そのおかげか、大学は両親が想定していたよりもかなりランクの高い学校に合格できた。
そのことは多少両親を喜ばせたようで、入学費と学費は全部出してくれると言っていた。それだけでも、私と両親との間に流れる空気の温度を考えればありがたいと思わなくては。
そういうわけで、私は自らが生きていくための糧を自ら得なくてはならない。これも一人で生活するなら当たり前のことだけど。
目下、収入を得る手段を見つけなくてはならない。
バイトを見つけるのが手っ取り早いだろう。
幸い私は運が良いようで、生活費と大部分を占める家賃は周辺の相場から見てもかなり安いところを見つけていた。
損益分岐点はかなり低い設定でいけそうだ。
時給のハードルを高くしなくて良い分、すぐに見つけられると思った。
エスコーラに所属するにしても、入会金や月会費は掛かる。イベントに出るなら遠征費や現地での飲食費なども自己負担の場合が多い。
スルドは楽器さえ入手してしまえば、以降それほどお金のかかる趣味ではないが、最低限の収入くらいはなくては続けられまい。
まずは収入源を見つけるところからだ。