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【幕間】 祷 cor primária do céu 16

 主目的たる『ソルエス』の浅草サンバカーニバルに於けるパフォーマンスの品質を向上させる資源はしっかり獲得できた。


 サンビスタとして、サンバの本場で卓越したサンビスタのワークショップに参加し、個々の技能の向上も果たせた。

 また、本場ブラジルの文化にも大いに触れることができた。


 観光客としても、広大なブラジルではあるが、主要な観光スポットはそれなりに回れ、しっかり楽しむことができた。



 祷に至ってはこの間に日本に留学経験のあるルシアという学生と知り合っていた。

 祷とルシアはやがて、「ブラジルと日本の架け橋プロジェクト」を立ち上げることになるのだが、それはまた別のお話。




 少々過密とも言えるスケジュールのせいもあり、旅行としては長期と言える期間は一瞬で過ぎ去り、気付けば帰国の日となっていた。



「ガビ、今度は日本で会おう!」


「うん、絶対行くよ! カーニバルまた出たいね」


「え、またガビ出てくれるなら上位狙えるじゃん!」


「ガビ、レチシア、ありがとう! またね」


「Volte novamente. foi divertido. Todo mundo é maravilhoso Sambista!」


「レチシアありがとう! ね、なんて言ったかわかる?」


「えっと、『楽しかった、また来てね、みんな素敵なサンビスタだよ』とか、そんな感じ?」


「うわ、うれしい!」


 穂積がレチシアに抱きついた。「オー!」とレチシアは穂積にハグをする。


「Muito obrigada! Eu voltarei. Espero que Letícia venha ao Japão algum dia também」


 穂積がレチシアから離れると、祷もお礼と、また来るという約束、日本に来てねという願いを伝えてハグをした。

 レチシアは拙い日本語で「アリガト」と言った。


 レチシアから離れた穂積は続いてガブリエルに「ガビー!」といいながらハグを交わしている。流れるように祷もレチシアへのあいさつを終えると、ガビにハグして別れの挨拶を告げる。


「ガビ、どうもありがとう」


「イノリ、ありがとう。ガンチャンにもよろしく」


 なんらかの会話で伝えていた妹のこともちゃんと覚えて、考えていてくれていたことが、祷には嬉しかった。


「あ、ガビ、それならがんちゃんへのメッセージ欲しい!」

 祷はガブリエルにもう一度、願子へのメッセージを言ってもらった。祷はそれを動画に納めた。

 ガブリエルにはスルドの叩き方を教えてもらい、練習動画として録画させてもらっていた。

 願子はスルドで『プリメイラ』という役割を担う。サンバの重要な低音を鳴らすスルド。そのスルドの中で、最も低い音を鳴らすプリメイラはその名の通りサンバにとっての「最初の」音を鳴らす重要なポジションだ。

 ガブリエルは、願子用にプリメイラの叩き方を丁寧な解説付きで叩いてくれていた。


 祷は先ほどの言葉を、動画の前にくっつけて願子に送るつもりだった。




 三週間ですらあっという間に過ぎ去ったのだ。

 名残惜しい惜別の時間の終わりを告げる空港のアナウンスの冷静で淡々とした声色は、別離を強制する冷徹な執行者だった。


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