【幕間】 祷 cor primária do céu 13
その日はガブリエルに連れられて歓迎の食事会が開かれたが、長旅と時差による疲れを考慮したガビにより、ほどほどで散会となり『ソルエス』一同はガブリエルにホテルまで連れて行ってもらい、久しぶりのベッドでゆっくりと休むことになった。
啓介はもう少し飲みたかったようで少し物足りなそうにしていたが、ガブリエルは「マッサンには明日以降夜の町付き合ってもらうから。お酒強いメンバー揃えてるよ」といたずらっぽく笑った。
茉瑠と慈杏は「男だけずるい!」と騒いでいたが、女性陣にはレチシアという女性が素敵で安全なお店を案内してくれるというので、納得したようだった。
ちなみにブラジルでは十八歳から飲酒が可能だ。日本国籍の日本人旅行者でも、法律は現地のものが適用されるため、今年の誕生日で二十歳になるがまだ十九歳の祷と穂積も飲酒できる。
実際に飲むかはその時に決めるとして、レチシアの案内は女性陣全員で受けることにした。
レチシアは卓越したパシスタでもあった。
その日は日中から男性陣と女性陣は分かれて行動した。
啓介はガブリエルに連れられ弦楽器を見に行き、その後ボサノバの権威を紹介してもらうそうだ。
ダンサーではない祷にとっては、ガブリエルと啓介のルートも魅力的ではあったが、女性ダンサーに混ざってレチシアのレッスンを受けることにした。
打楽器奏者としても、ダンサーの感覚を身に付けるのは重要だし、身体が打楽器のリズムを受け止め反応できる状態は演奏にも役立てると思えた。
レッスンの後はレチシアおすすめのブラジルの家庭料理や郷土料理を出してくれるお店に行った。祷はカレーのような見た目の魚介のシチューが掛かったコメ料理『ムケッカ』を味わった。
「え、なにこれ、すごくおいしい」
サンバに携わり、シュラスコをはじめ、日本でもブラジル料理を食す機会が増えた祷。
フェイジョアーダやポンデケージョなど、サンバに関わる前は知らなかった料理でも、一通り食べる機会が得られていたが、サンバ発祥の地バイーア地方の郷土料理であるムケッカを食べる機会には恵まれていなかった。
当然と言えば当然だが、異国の文化は深い。自国のそれと同様に。
外国人が語る日本の文化は、日本人からすれば知名度の高い、まさに「日本の代名詞」といったものがほとんどだ。そこにそのタイミングでなんらかの流行に乗っているものが、その時々で加わる。
逆の立場になれば、全く同じことが起こるのだろう。
祷が認識しているブラジルの文化。例えば食文化に限っても、日本食で言えば寿司、天ぷら、蕎麦にスナック的な位置付けでおにぎり、家庭料理としての味噌汁、珍味としての納豆、日本で進化したらーめんを加えた程度のものか。ピーマンの肉詰めやモツ煮など、日本人にとってはさほど珍しくないものでも、海外に於ける認知度は低いだろう。
やはり現地での体験に勝るものはない。
祷は貪欲に、「この地での当たり前」で、「日本人が認識していないもの」の知識の吸収に勤しんだ。