【幕間】 祷 cor primária do céu 8
祷はこの計画の話を聴いたとき、一も二もなく立候補した。
この行為の背景には、祷の異常性が少々見え隠れしている。
祷はその少し前まで心臓の手術のため入院をしていた。
手術は無事成功し、退院した祷。病状は完治している。体力も充分戻ってきていて渡航には何の支障もない。
特異なのは病み上がり早々に遠方に長期亘ることではない。
若い女性が掛かりにくい病状を得た祷。
はっきりとした原因は不明だが、ストレスの影響が否定できなかった。
日々学業に加え学内の活動、インカレのサークル活動、資金調達に加えサンバに係るプレイヤーとしてのタスクの他運営や企画に関しても精力的に取り組んでいた祷。
好きでやっていることばかりだったので、精神的なストレスをはっきりと感じていなかったことも災いした。
疲労という肉体的な負荷は確実に無意識なストレスも蓄積していったものと思われた。
そんな彼女はさすがに反省したのか、入院中はおとなしく過ごしていたが、仕掛かり中のタスクが消化されていったわけではない。
退院早々、留めてしまっていたものを、反省は生かしながらも高速回転で回していった祷。
ようやく帳尻が合いそうな段階にきたところで、また当初予定していない三週間もの「別枠」のタスクを挟み込むというのだ。
本人の中では新たにスタックすることが予測できるそれぞれのタスクについて消化のプランを立てられたのか、ノータイムで立候補を決めた祷。
活動全般を補佐をしてくれていた穂積。祷の入院中は穂積が代理で処理していた案件もある。
そんな穂積も一緒に行くというのだから強気だ。この三週間は全てが完全に止まることになるのだから。
入院時に散々心配をかけた妹の願子へは、早々に報告をした。行くことになったという結論を。
散々心配を掛けられた妹は姉に激昂した。
「なんで事後報告なの⁉︎ 普通事前に言わない⁉︎」
そもそもが無理が祟ったが故と思われる病を患っていたのだ。
ここにきて新たな無理を背負っているように見えたら心配に思うだろうし、配慮があるなら心配を解消させる説明はあって然るべきだっただろう。
自身を心配しているが故の怒りを甘んじて受け、平身低頭で謝ってはいたが、決まったことは変えられず、ほどなく当日を迎えた祷が、荷物は相応だったが「いってきまーす」と図書館にでも行くような気軽さで出かけて行ったのを見送った日には、残された願子の「全然身につまされてない」「あの陳謝はなんだったのか」とのご立腹も至極当然の帰結である。
帰国後妹に詰められることになるなんてつゆ知らない祷は、この三週間を存分に楽しんだ。