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【幕間】 祷 cor primária do céu 7

 比較的時間の調整がつきやすい大学二年生の入船穂積(いりふねほづみ)(サンバネーム「ほづみ」)。


 幼少の頃から磨き上げたダンススキルに加え、ますます磨きがかかった容姿をもつ次代の主力パシスタのひとりである彼女は、一方で持ち前のコミュニケーション能力と論理的思考力で、チームの企画や運営を助けていた。

 特に最近入った同年齢のスルド奏者(いのり)は、企画や運営に長けていて、彼女を手伝うことも多い。



 穂積は子どもの頃に妹の入船柊(いりふねひいらぎ)(サンバネーム「ひいらぎ」)と一緒にダンサーとして入会して以来、『ソルエス』の『クリアンサス』(十八歳未満の子どものダンサー)の中では年長者として、年下のダンサーの面倒を見つつ研鑽を重ねていった。


 子どもの頃から目を引く容姿を持ち、ダンサーとしてのセンスも光っていた穂積はダンサーとしての頭角を早々に表していく。

 面倒見も良く明るい性格の彼女は、恵まれた容姿も相俟ってどこにいても目立ち、いつでも中心的な存在となっていた。

 そのような存在は人気という強い光を浴びる分、謂れのない嫉妬という濃い影が生じる。


 そんな、誰のせいでもない自らの資質がもたらす善きも悪しきも持ち前のしなやかさと、それでも折れそうな時には妹の剛力に助けられたりもしながら、人生を進めてきた彼女。

 拓けている将来の選択肢は無数。その数ある中から、穂積は密かに考えていることがあった。


 サンバの世界で生きていきたい。


 社会人になってもサンバを続けているサンビスタは多い。

 パフォーマーとして収益を得ている者も少なくはない。


 穂積はまだそこまで強い決意も、具体的な意志を抱いているわけではない。

 しかしその指向性は、「サンバで身を立てる」と言ったもの。


 ダンスで言えば、メジャーなジャンルであれば、極めて厳しく恐ろしく狭き門ではあっても、その分野の「プロ」として生きているものはいる。

 しかし、日本における「サンバダンサー」に関しては、それ一本で生活できているダンサーは稀有な存在だ。業界内最高峰の知名度を誇っていても、別途収入を得る手段を持っていることが多い。「サンバ」という名の知名度を考えれば、歪とさえ言えた。


 サンバの業界自体を変革させようとする祷との出会いは、穂積にとって、これまでの人生の大半を共にしてきたサンバと、この先の人生も共に在れる可能性との出会いでもあった。

 その出会いが、彼女の人生設計に新たな選択肢を与えたようだ。





 同じく大学二年生の姫田祷(ひめたいのり)(サンバネーム「いのり」)は、打楽器隊『バテリア』の中で、大太鼓スルドの奏者をしている。

 妹の願子(めがみ)(サンバネーム「がんこ」)がスルドを始めたのを知り、追うように始めた彼女は、まだまだスルド歴は短いが、元々吹奏楽部にていくつかの楽器を高いレベルで操れる奏者で、打楽器の経験もあったこともあり、スルドの技術を乾いたスポンジが水を吸うように身につけていった。


 祷はプレイヤーとして以外にも、能力を発揮していた。

 華やかで柔らかな印象とは裏腹に、経営、企画、運営等に係る類稀なる能力を、圧倒的なバイタリティに乗せてエスコーラやサンバ文化を振興させる活動を、同い年で波長も合う穂積の力を借りながら推進していた。


 彼女にとっては、ブラジルで得られる体験はすべて、のちの計画や企画に繋げられる資源となるものと思われる。



 語学にも長けている祷。

 ポルトガル語はサンバを始めるまで馴染みは無かったが、サンバを始めてから急ピッチで身に付けていた。さすがにまだ言語として操れる段階には届いていないが、挨拶程度のやり取りなら会話もできる状態にはあった。


 ガブリエルは日本語がわかる。基本通訳を兼ねてくれるが、ガブリエル自身が日本語に長けているわけではない。言葉の壁を超える材料は多いに越したことはないはずだ。


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