表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/196

指針

 それは偶然だった。

 その偶然の邂逅の中で、更なる偶然を知り、運命というものの存在を感じた。



 画面の中では華のある女性がスルドを演奏していた。

 自身の番組を持つ動画配信者だ。登録者数からして、収益化には届いていそうだ。



 今住んでいる場所から通えそうなエリアで活動しているエスコーラのひとつに、『ソール・エ・エストレーラ』があった。通称『ソルエス』と呼ばれている。

 私が入っていたエスコーラは強豪に属する部類だ。そのクラスと比較すると規模は落ちる。

 チームを認知はしていた。個人的な繋がりのあるメンバーがいたわけではないので馴染みは薄いが、人数は限られているものの、ダンサーはひとりひとりのレベルが高く個性的、バテリアは少人数ながらまとまりがよく芯の強い音を出す印象があった。

 人数が少ない分メンバー同士がまとまっているようにも見えた。

 隣の芝生の論理かもしれないが、良い雰囲気のチームだなと思っていた。


『ソルエス』のことを具体的に調べていく中で、活動内容やメンバーの楽しそうな様子を動画や画像などでみるにつけ好感度は増していった。


 そんな中、件の女性配信者の動画に辿り着いた。


 彼女は『ソルエス』の一員でスルドを担当しているようだった。

 動画ではいくつかのコンテンツの中にスルドのものもあり、ソロのバリエーションを奏でていた。



 見映えの良い人だ。

 打楽器隊の中で演奏していたとしても、一際目を引きそうな華やかさがあった。

 技術面だけで見れば私も負けているとは思わないが、聴覚に訴えるはずの楽器の演奏が、視覚でもこれほど見応えがあるのは、画面の構成や効果の力もあるだろうが、奏者自体の輝きもあるように思えた。



『ソルエス』にこんな人いたっけ?



 確かにあまり馴染みの深いエスコーラではなかったが、同じスルドの奏者にはなんとなく注目してしまうものだ。

 実際、『ソルエス』のスルドで顔や名前くらいならわかる人は何人かいた。


 これだけ華やかな人なら、画面越しでなくても目に入ってしまいそうなものだが......。



 チャンネルを深く読み込むと、簡単なプロフィールもあった。


 スルドをはじめたのは数ヶ月前のようだ。半年経つか経たないかというところか。

 その頃から今までは、私は受験のためサンバから離れていた時期と重なる。活動時期が被っていないのだから知らないのは当たり前だった。


 この短期間であれだけ叩けるようになったのかと驚いたが、高校時代は吹奏楽部だったようで打楽器の経験もあったらしい。音感や音楽性、リズム感なんかは身についていたのだろう。



 サンバはいろんな演者によって成り立つ。

 そこに序列はない。


 その思いは今も変わっていない。


 でも、当然と言えば当然だが、画面の中の彼女は主役だ。唯一であり随一だ。

 そして、その映像は、他者に触れられ、直截的な評価を受ける。


 非難も称賛も。


 或いはそれは、ひとつの栄誉の掴み方なのかもしれない。と思った。

 かつて、一度も届くことのなかった頂への道が、スルドを奏でるという行為の先にもあるのだとしたら。


 私はまた、それに挑もうとするのだろうか。



 この配信者のことが気になった。


 SNSを積極的に利用していた彼女。

 なんと同じ大学の一年先輩であることがわかった。



 会って話してみたい。



 心の中に浮き立つ思いが生じるのを認めた。

 ここ最近、配信やSNSの更新が滞っていることが僅かに気になったが。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ