彼女の現在
入院に関しては長いものではなかった。
入院を経て、根治なのか緩解なのかはわからないが、退院後の日常生活に支障は無さそうだった。
退院後は、もともと抱えていたタスクが入院によって溜まってしまったので、しばらくは消化に注力していたようだ。
もちろん、体調に悪い影響を与えないよう管理しながら。
溜まっていたタスクの中には、例によって企業との取引? 権利の譲渡? のような、専門家に間に入ってもらうような大きなものもふくまれていたそう。
消化にしばらくの日数を費やしていたころ、急遽ブラジルに数週間滞在するという話が降って湧いたらしい。
これも友人の方は詳しい事情や内訳は把握していなかったようだが、どうもサンバ絡みの案件らしい。
ブラジルへの渡航は必須ではなかったようだが、自ら率先して志望したらしい。
海外に行くというだけでも一大事なのに、この国の裏側にあるブラジルに渡るなんてちょっと果てしない。
私だったら行くと決意するだけでも大変だし、行くことを決めたら決めたで準備だけで一週間以上かかってしまいそうだ。
病み上がり且つ忙しい最中にそんな選択肢を取れる彼女は、動画で見たたおやかな印象とは裏腹にアグレッシブな人のようだ。
移動も含めた滞在日数は凡そ三週間ほど。
元々の予定にはない新たなアクションのため、この空白期間中のタスクも事前に消化するもの、延長の根回しをするもの、引継をするものに分けて対応をし、日々に追われている中取るものも取り敢えずくらいの態で旅立っていったのだという。
情報提供者の友人曰く、そのことを知らされたのが搭乗の前日だったらしい。
ブラジルで具体的に何をしているのか、どれくらい忙しいのかもわからないが、せっかくのブラジルだ。遊びも含めやることは多いと思われる。
少なくとも暇ということはないだろう。
それでもSNSの発信くらいはできそうなものだが、慌ただしく出かけて行ってしまったため、スマホを海外で気楽に利用できるような契約形態に変えてなかったようで、どうせ三週間で戻るからと、必要最低限の連絡のみ取っている状況らしい。
今会うことができない理由は、姫田さんは未だブラジルにいるからだった。
「うちの大学でも大学発ベンチャーとかあるし、学生のうちに起業するようなひともいるけど、一年生のうちからここまで行動的な人は珍しいかもね。私もちょっと会ってみたくなったよ」
要さんも興味を持ってしまうような姫田さん。
日本へはもう戻ってくるらしい。
抜かりの無い要さんは、姫田さんが戻ってきたら橋渡し役を情報提供者にお願いしてあるとのことだった。