スマートなお客様
体験入店の際、しょーちゃんに呼ばれて来店してくれたたーくんが言っていた、「連れてきたかった人」が、アキちゃんのことだった。
たーくんとしては、しょーちゃんの後継の私にまっさらなお客様をつけたいという想いと、アキちゃんの仕事が『Three ducks』にとっても使いどころがありそうだと、ママに紹介したい意図があったのだとか。
実際ママも、「そういうことなら遠慮なく」と、接客そっちのけでアキちゃんに広報や集客に関する相談をしている。
アキちゃんは嫌がる素振りも出し惜しむ素振りも得意がる素振りも見せず、日常会話のようにママの質問や悩みに答えていた。
「アキ、気前良すぎるぞー。こっから先は金とるって言っちゃえよ」たーくんが磊落に笑っている。
ママは「意地悪言わないでよー」と膨れつつ、アキちゃんへは「調子に乗っちゃってごめんなさいね」とかわいく謝った。
アキちゃんの方も「楽しませてもらっていますから」とあくまでもスマートに返している。
それでもママは、けじめはつけようと思ったのか、「たーくんの想い無駄にするわけにいかないわね」と、自分は席を立ち、あとは私に任そうとしてくれた。
去り際に「ちょっと今考えていることがありまして。本当にご依頼させていただくかもしれませんので、その際は連絡いたしますね」とアキちゃんの名刺に乗っていた仕事用の携帯電話番号を登録していた。
アキちゃんは「よろしければプライベートでも」と私用の連絡先を渡すようなことはしなかった。
遊び慣れていないのか、あくまでも一戦は引くスタンスなのか。
この人が私のお客様になってくれるイメージはまるで湧かなかったが、とにかく今日のこの場は楽しんでもらおうとがんばった。
お陰で都市開発の業界や広告代理店の業界に少し詳しくなってしまった。
場も盛り上がった。
楽しかったし、楽しんでもらえたとも思うが、相手のトークスキルに助けられていた気もする。
振り返って思うのが、ほぼ仕事の話しか聞けていないのは どうだったんだろう、という点だった。
初見で思った「どこかで見たような気がする」ことを率直に伝えて深掘りすれば良かった?
いや、そんな昔のナンパのようなことを言っても、一歩引いたような立ち位置でこの場にいた彼からは見え透いた営業トークのように思われてしまったかもしれない。
キャストは聞き役で、気持ちよくお客様に語らせるのが基本姿勢だろうが、それは好んでこのようなお店に来る方の場合だ。連れてこられたようなタイプに対しては、ある程度こちらから積極的に情報を開示していくのが良いのかもしれない。次はそんな感じでいってみよう。
次があれば良いのだけど。