ひとりだち
しょーちゃんがいなくなってからが、私にとっての実質的なデビューと思っていた。
独り立ちの応援ということで、たーくんたちがお店に来てくれた。
ひとりであっても、私はしょーちゃんが残してくれたものに助けられている。
たーくんたちはしょーちゃんの卒業パーティーの日にも来店されたばかりだから、とにかく来店する名目があれば良いようだ。
いつものメンバーに加え、今日は見慣れない人物を伴っていた。
その男性客は若く見えるが三十代前半から半ばといったところだろうか。ケージくん、ユウキくんと同世代くらいだと思えた。
スマートで洗練された雰囲気には、やや鋭さも伴っている。
たーくんややまさん以上に美容師っぽくは見えない。
(あれ?)
どこかで見かけたことのあるような気がした。
整った顔立ちで、どちらかといえば格好良い方なのだろうけど、整った顔というのは個性的ではないことも多い。悪く言えばどこにでも良そうなタイプだからかもしれない。
「今日はゲストも連れてきたぞ」
たーくんが嬉しそうにいうと、男性は微笑んで「高天です」と名乗った。
身に纏った鋭さは薄れたが感じの良い笑顔には営業っぽさを感じた。
こちらに警戒心を抱かせるようなビジネスライクさは感じなかったものの、男性の側にリラックスとは遠い、業務として事に当たる油断のなさのようなものがあるような気がした。
たーくんによると、以前店舗を拡大する際に世話になったことがあったそうだ。
地場に特化した都市開発の会社に所属していた彼は、その手腕で瞬く間にた―くんの望む環境に、更に付加価値を加えた提案が含まれた案件を用意してくれて、条件的にも有利な内容で取り纏めてくれたらしい。
なるほど。仕事上の付き合いで連れて来られた系か。
好んで来ているわけではない可能性がある以上、本人がこういう場を好きかどうかはわからない。
慎重さが必要になると思った。察するに、現時点では警戒心よりは上、乗り気よりは下といったモチベーションだろうか。
彼がたーくんのために選び提案した環境で展開した新店舗は全て順調だった。
有能な若者が好きなたーくんは彼を即気に入って、その頃はよく飲みに連れまわしていたようだった。
そんな過去の話を受けても、彼は「オーナーや店長、美容師さんたちの努力のたまものですよ」とあくまでも謙虚、言い方を変えればビジネスモードだった。
確かに、仕事ができる人物といった感じがする。
一方、敢えてそうしてるからなのか、親しみやすさはあまり感じないというか、距離感があるというか......。それも少し違うか。距離を詰めさせない? が一番近いかな?
物理的な壁はないが呪術的な結界のようなもので、近寄れないわけではないのだが、心理的に近寄るのを難しいと感じてしまう、といったイメージだ。