しょーちゃんが卒業して
しょーちゃんが『Three ducks』を卒業する日。
店内では盛大なイベントとして扱い多くのお客様でにぎわった。
たーくんをはじめとしたしょーちゃん馴染みのお客様を中心に、たまたまお店に来たお客様や他のキャストについているお客様も、その日に関してはしょーちゃんを労い、これからの門出を祝福していた。
私はしょーちゃんについて回り、各所で後継者として紹介された。
ここまでしてもらっているのだ。
紹介されたお客様ががっかりするようなことのないよう、しっかりしなくては。ひとりで。
もちろん困ったことがあったら要さんやママは手助けしてくれるだろうけど、引継の名目で常に一緒に居てくれたしょーちゃんはもういないのだから。
要さんもママも自分の仕事がある。基本的には何でもひとりでできるようになっていないとならない。
そのようなことを、後日お寿司屋さんで開かれたしょーちゃんの送別会で語ったら、大げさすぎると笑われてしまった。
笑っていたはずなのに泣き出してしまったしょーちゃんは多分飲み過ぎているのだろう。
つられて飲んでもいないのに私も泣いてしまった。
要さんは「別に会えなくなるわけじゃないのに」と呆れている。相変わらずクールだけど、なんならしょっちゅう会うと思うよと言いながら、私としょーちゃんをあやしている姿からは慈しみの情が溢れていた。
私もしょーちゃんも、要さんが本当は情に篤いことを知っている。
そんな私たちをママや千景さんら他のキャストはほほえましく眺めていて、『Three ducks』がママを中心とした家族のような集まりであると再認識した。そういう雰囲気は好ましかった。
サンバチームに入るとしたら、そういう要素も考慮したいなと思った。
高校時代に入っていたチームは大所帯で、連携もしているしチームとしてまとまってもいたが、家族的かといわれると、それよりは組織的な印象だったから、次に入るところは規模が小さくなっても良いから、アットホームなところが良い。
サンバは音楽やダンスのジャンルとして見た場合少し特殊だ。
エスコーラは打楽器隊、ダンサーに、歌唱やメロディを奏でる楽器も必要だ。ダンサーには幾つかのポジションがある。
きらびやかな衣装や仮装のような衣装。パレードには山車を出すことも。その辺りのクリエイティブも大抵はチームメンバーによる制作となる。
本場ブラジルのエスコーラなんかはチームの代表であるプレヂデンチは、父性社会に於ける父親的な役割を担っていると聞く。
日本のエスコーラが必ずしもそうであるとは限らないが、一プレイヤーとしてポジションに沿ったパフォーマンスを提供するというよりも、チームの一員としてみんなでひとつのパフォーマンスを創り上げていくといったイメージだ。
そうであるなら、やはり私は会社組織的な集団よりは、家族的な方が良いなと思っていた。
家族的な方がシステマティックでない分、負荷の偏りや人間関係のごちゃごちゃなど、負の側面があることも聞いているが、機能や役務の提供よりも、人間として携わっていきたい。