取り組んできたもの
私は高校時代、地元のエスコーラに所属し、打楽器のひとつ「スルド」を担当していた。
サンバには華やかなダンサーのイメージが強いと思う。
しかし、ダンスは音楽無くしては起こらない。
サンバ独自のリズムを鳴らし響かせる打楽器隊を「バテリア」、その指揮者を「ヂレトール」という。
そしてメロディを奏でる奏者(楽器は弦楽器が多いが、管楽器が用いられることもある)と、歌を唄う「カントーラ」。
サンバは打楽器のリズムだけで踊ることもある。これは「バトゥカーダ」という。
つまり、打楽器無くしてサンバは始まらないといっても過言ではない。
そんな打楽器の中で、最も低い音を担当し、リズムの基礎となる「スルド」を私は選んだ。
バテリアに於いて、各楽器は複数の人員によって構成される。
スルドも複数名必要だった。
人数が多ければ大音量になったりバリエーションが増えたりするという理由はある。
加えて、スルドの場合リズムの基礎を担う上で更に役割が分かれていた。
最も低い音を奏でる、「一番目」を意味する「プリメイラ」
プリメイラよりも高い音で、プリメイラの音に「応え」る「二番目」を意味する「セグンダ」
そして、セグンダよりも高い音で、プリメイラとセグンダの応酬に「合いの手」を入れる「三番目」を意味する「テルセイラ」
テルセイラはリズムの基礎を担うスルドでありながら、合いの手を入れるという性質上、豊富なバリエーションでリズムの層を厚くする役を担う。
すべてが必要な要素であり、そこに一番も主役もなく、しかし誰もが主役と言える大切な存在となる。
優劣ではなく、役割に違いがあるのだ。
私はスルドの中で、手数やバリエーションで基礎のリズムに華を添えるテルセイラを選んでいた。
私は高校生活の約三年間、エスコーラでスルド奏者としてサンバの世界に身を置いていた。
浅草サンバカーニバルで優勝の瞬間にも立ち会えた。
プレーヤーとして、練度を高める努力を続けることは当然だが、一位にならずとも、サンバパフォーマンス全体を創り上げる一構成要素として在れることに歓びを感じた。
みんなで練習し、みんなでバリエーションやパターンを決め、みんなでパレードに挑んだ。
チームが優勝を勝ち取った時は、みんなで我が事のように歓び、その後の打ち上げは盛り上がった。
成人しているメンバーは上機嫌でお酒を飲んでいたし、数は多くはなかったが私たち未成年のメンバーも大人に混ざってはしゃいだ。
受験勉強が本格化する時期より休会したまま、進学を機に一人暮らしをするにあたって引っ越しをした結果、距離的に通いにくくなってしまいそのままになっている。
新生活も落ち着きつつある。
またスルドを始めてみても良いかなと思っていた。