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クラブ藤宮

 ボーイさんに先導されてお店の中を進む。入り口では私のやや後ろに控えていたジョーは、今は私の前に位置していて、なんだか盾のようだと思った。



 都心の一等地なのにとても広お店だった。童話のお城に設えてありそうな豪華なシャンデリアはまだ明かりを灯していないのに、室内の明かりを反射し煌めいている。

 広い店内には無数の席が設置されているが、ローバックソファなので視界が開けていて解放感があった。


 広さ、席数に比例した数のボーイさんがきびきびと開店準備をしている。

 案内に付いて行きながらも、その圧巻についついきょろきょろしてしまった。



 ボーイさんが事務室の扉をノックし、来客の旨を告げると、中から入室を許可する声があった。ボーイさんが扉を開け、私たちを部屋の中へ通し、ボーイさんは室内を辞していった。


「失礼いたします。渚ママ、ご無沙汰いたしております」


「こんばんは。ほんと、いつ振り? Ducksの子たちはお使いに来てくれるけど、ジョーは滅多に来てくれないもんねぇ。下手したら一年以上会ってないんじゃない? 天涯比隣だとしても、ちょーっと薄情なんじゃない?」


「恐縮です」



 昔馴染みのような語り口の渚さんと、あくまでも黒服としての立ち居振る舞いのジョー。



 ジョーは唯華ママとは旧知だと聞いている。

 なんとなく、ママが『クラブ藤宮』に勤めていた頃からの知り合いというか、仲間のような印象があった。

 ということは、かつて同店でママとは先輩後輩の関係にあった渚さんともジョーさんが旧知であってもおかしくない。



 最強黒服のジョーを手玉に取るような物言いといい、年齢不詳な美貌といい、さすがは唯華ママの先輩。なんとなく醸し出す雰囲気が似ている。そういう流派なのかな。



「渚ママ」



 ジョーが会話の軌道を戻そうとすると、「わかってるって」と、渚ママは笑った。



「その子でしょ? Ducks期待の新星誉ちゃん」



 本来、こちら側から紹介させてもらうのが筋なのだろう。

 儀礼を重んじるジョーは言葉を取られて露骨に嫌な顔をしている。



「初めまして、誉です。この度はお招きいただき、また、貴重なお時間を頂戴いたしまして誠にありがとうございます」



 いや、招かれた、は違う、か……?



「もー、そんなにかしこまっちゃってー。唯華になんか言われた? 別にあたし怖くないからね?」



「何にもいわれてませんっ! すごいお店のすごい人だとは言ってましたっ」



 なんとなく千と千尋みたいな感じするーとは思っていたけれど。



 ジョーが小声で落ち着くように言っている。そうだ、吞まれてはいけない。

 心を落ち着かせれば、視野が戻ってくる。

 そうだ、私はすべきことをまずしなくては。


 今日は教えをいただけたり、ヘルプを体験させてもらえたりと私にとってのベネフィットはあるが、あくまでも本来の目的はお使いだ。



「唯華ママよりお預かりしました。こちら、お返しさせていただきます」



「はい。確かにお返しいただきました」柔らかな笑顔の渚ママ。



「唯華ママより感謝の言葉もお預かりしています。ええと、『さんきゅ!』だそうですっ」


「いーえー、どういたしまして。うん、誉ちゃん良いね。話聞いているでしょ? 時間あったらうちの店でヘルプやってかない?」


 断る理由はない。

 ぜひお願いしますとまあまあの勢いで答えると渚ママは満足そうに微笑んだ。


 お店を簡単に案内しながら、業界のことや『クラブ藤宮』のこと、渚ママ自身のことなどについての話もしてくれるということになった。



「それじゃ、しっかりやんなよ」



 ジョーはこの段階で『Three ducks』に戻っていった。

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