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仕事に少し慣れてきた頃

「どう? 少しは慣れた?」


 ある日、開店準備をしていたらママに話しかけられた。


 まだまだ毎日新らしいこと、知らないことが起こる。

 覚えることも完全に覚えているかといわれれば怪しい。それでも、基本的な仕事については一通り身に付いたと思う。

 接客も長けているとは言えないけど慣れてはきているのではないかと言う実感はあった。



「明日はシフトの無い日だけど、何か予定入ってる?」



 続けてそう尋ねたママ。

 もし時間があったら、お使いに行ってくれないかと言う申し出だった。もちろんお小遣いは出すと言ってくれている。


 特に予定は入っていないし、お小遣いも嬉しい。

 ママの申し出を受けると、ママは殊更喜んでくれた。

 お金に釣られて受けたのに、喜んでもらって心苦しかった。良くしてもらっているママのために、って真っ先に思えれば良かったのだけど。


 やっぱり窮するのは良くない。

 心に余裕が無いと考えが自分のことのみに占有されてしまう。他者を思いやる心が削られ、欠けたところを我欲が取って代わってしまうからだろうか。

 状況は急激に良くなりはしないのだから、窮していることを自覚し、自己中心的になりがちになってしまうことを、できるだけ意識していこう。



 翌日、お使いを頼まれたときに秘めた決意は胸に据えたまま、私は銀座一丁目駅で電車を降りた。

 そろそろ夕方に差し掛かる時間だが、まだ空は明るい。



 ママが指定した行先は、『クラブ藤宮(ふじのみや)」』



 銀座一丁目からやや京橋寄りの立地に店舗を構える老舗のクラブだ。

 銀座の中心からは少々外れてはいるが、どちらかと言えば高級クラブの部類に入る。資格はそこまで厳しくはないが一応会員制だ。



 ママは以前このクラブに勤めていて、独立して『Three ducks』を立ち上げたという背景を持つ。

 独立の際は円満で、『クラブ藤宮』の先代のママには独立後も公私に亘って世話になっていたのだそう。


 店舗同士の交流は今も続いていて、『クラブ藤宮』の現在のママは唯華ママの先輩筋に当たり、こちらも、唯華ママを「クラブ藤宮」在籍当時からかわいがってくれていた方なのだとか。



 今日のお使いの目的は、ママが借りていた着物の帯を止める帯留めと着物用の手提げ型のバッグを返しに行くと言うもの。


 先方のママには新人の私をお使いに出すことは事前に話をつけてくれていて、お使いのついでに教えなども授けてくださるのだとか。

 一流のお店がひしめく激戦区で向こうを張って長年営業を続けてきた店舗のママの話は、たとえ異なる業界だったとしても傾聴に値するだろう。


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