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ここでがんばってみよう

 いつの間に頼んだのか、追加の餃子を摘んだ要さんは、私にも食べるように促す。私もひとつもらい、酢が多めのタレにつけて一口で頬張った。まだ熱々であうあうしてしまう。



「でも、実際誉頑張ってたと思うよ。私、祥子の提案も嬉しかったし、初めてだし慣れてないだろうに真剣に取り組んでる誉の働きっぷりも嬉しかったんだ」



 要さんが終始穏やかな上機嫌さを纏っていた理由が、私を認めてくれる内容を伴っていて私も嬉しかった。



 実際、私は真剣だった。



 体験は自身がそこで働きたいか、働いて行けるかを判断するためのものだが、お店に試されてもいると思う。

 ある意味試験であるという状況が私を真剣にさせた部分は当然ある。選択肢のほとんどない私にとっては、ここで働けることは救いの糸となるはずなのだから。


 でも、心に火が付いた理由は内側にあった。


 しょーちゃん、要さん、そしてママに、ここまで整えてもらって。

 お客様にここまで特別に扱ってもらえて。


 それにおんぶにだっこではあまりにも情けない。


 例えばその場に限ったことで言っても。

 巡回しているママを除けばお客様五名に対しキャストは三名。私が戦力にならなければふたりで五名のお客様を満足させなくてはならないのだ。

 その場に於いては私も貴重な一とならなくてはならない。「体験だから」「慣れていないから」と、甘えていられる立場ではない。


 会話は切らさないよう集中し、それでも他の会話もきちんと把握しながら適宜相槌やら言葉やらを挟む。

 会話しながらであっても要さんやしょーちゃんの動きをよく見ておき、近しい状況が訪れたら見様見真似でも同じような対応をする。お手洗いに行かれたお客様についていき、おしぼりを渡したり、グラスが汗をかいていたら水滴を拭き取ったり。




「誉ちゃん、気が利くねぇ。筋、良いんじゃないか?」



 たーくんにそう言われたときは、やっぱり嬉しかった。


 正直言えばお金のためだけにやろうとしている仕事だ。

 それにどちらかと言えば水商売のお店を利用する男性を善しとは思っていなかった。



 でも、人対人として関われる相手なら、お互いの立場を超えて敬えることもあるのかもしれない。



 体験でそこまで思い至れたのは、周囲やお客様に恵まれたからだろう。恵まれているなら、その恩恵は大いに受け、受けたものを返せるようになれたら。

 そんな風に思っていた。




 夜食兼振り返りの場はほどほどで解散し、私は要さんと同じ部屋に帰る。



 程よい疲れのせいか、金銭的な不安が解消されそうな見込みが立ったからか、その日はよく眠れた。


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