糧を得るということ
接客を伴うアルコールを出すお店。いわゆる水商売。夜のお店などとも言われる。
『Three ducks』はクラブやキャバクラほどではなくとも同属性のお店ではあるが、夜中の深い時間帯までは営業をしていない。
その点も学校と両立する上で助かる要素だ。お店に徒歩で通える場所にある要さんの家に居候させてもらえることも、両立のしやすさに拍車をかけてくれている。
体験を終えた私は、要さんとしょーちゃんに連れられ、中国ラーメンや中華料理を出すお店で夜食をとることにした。
首都圏で複数店舗展開しているチェーン店で、中華料理よりはラーメンよりのラインナップだけどラーメン屋とは言えない感じのお店だ。
深夜まで営業しているので、『Three ducks』ではあまりないが、たまにお客様とアフターに行くときは、流れで締めに利用されることも多いらしい。
三人とも明日の朝は早くないので、夜食がてら今日の振り返りをしようということになった。
「かーっ、今日もがんばったぁ」
しょーちゃんが早速瓶ビールを手酌で小さなコップに注いで、乾杯もせずまるで薬でも飲み込むように一気に飲み干した。すぐに二杯目を注いでいる。
お店でも結構飲んでいたようだけど、さすがだ。
「誉も頑張ったね。お疲れ様」
要さんは穏やかにほほ笑むと、グラスをあげた。私はウーロン茶の入ったコップで応じた。
要さんは飲むつもりはなかったようだが、瓶ビール用のグラスは人数分用意されていて、しょーちゃんが要さんの分もビールを注ぐと、当たり前のように受け取り飲み始めていた。
「あの時は焦ったけどねー」
しょーちゃんが困ったように笑う。
要さんも言ってくれたが、今日の体験入店は我ながら頑張ったと思う。が、うまくやれたかと言われると結構微妙だった。
大人数のテーブルではありがちだが、場が進むと会話は盛り上がっているものの、話題はいくつかに分かれてしまう。私は隣に座っていたケージくんとの会話が中心になっていた。ケージくんは次々質問を投げかけて来るので、それに答えるだけで良かったのは楽だった。
問題は質問が途切れ、間ができたその時。
「誉ちゃん入店決めちゃおーよ。そしたらオレ自腹で通うからさー」
酔って呂律が怪しくなったケージくんが少し私に寄っかかってきて、私の太ももの上に手を載せた。
「うわぁあっ⁉︎」
咄嗟に出てしまった声は、ギャグマンガのような叫びだった。せめて、「きゃー」とかかわいい声が出れば良かったのに。
ユウキくんがすぐに状況に気付き、コンビのようなノリでケージくんを窘めてくれた。たーくんも、「ケージよぉ、誉ちゃんのこと気に入ったんなら、むしろ誉ちゃんにボディタッチするような奴がいたら止め役に回るくらいにならないとな」と苦笑いしながら説いていた。
このお店では、原則キャストに触れることは禁じられている。
とはいえ、お酒も入っている中で、あまりにもルールでがちがちに縛ってしまうのも居心地の良さを提供する店舗としては拙い。
前時代的ではあるが、キャストの力量で、お客様の気分を害することなくルールを守ってもらえるようコントロールをしなくてはならないのだ。