初めてのお客様
しょーちゃんが呼んだご一行は地場でいくつかの店舗を経営している美容室のオーナーと、その部下たちだった。
事前にしょーちゃんから簡単な情報は仕入れていた。
全員美容師だが、美容師集団といった雰囲気はなく、オーナーと思わしき人は普通のおじさん。意外と癖はなさそう。
お店の常連らしく、みんなからはたーくんと呼ばれている。本名はタクマさんというらしい。
四十代くらいのひとも、まあどこにでもいそうなおじさん。ちょっと気難しそう。
たーくんの会社の本部の社員さんで経理なども任されている山科さん。通称やまさん。
たーくんがお店に来る時は大抵やまさんと一緒らしい。経費にするしないの判断もやまさんがしているようだが、そもそもお互い一美容師だった頃の先輩後輩で、たーくんが単純にやまさんと一緒に飲み歩きたいのだそうだ。
比較的若めのふたりも、まあおじさん。うち一人はちょっとおしゃれで、おにいさんでもいけるかもしれない。
二人とも年齢は近く、三十代半ばとのこと。同期入社でそれぞれ店長を任されている。
この辺りの年齢は人によって見た目や雰囲気にかなり差がありそうだ。
男性がそれをするのかはわからないが、「幾つに見える?」というありがちな質問をぶつけられた時は気をつけたほうが良いだろう。
女性よりも難易度が高い点があるとすれば、必ずしも若く見られたいという価値観ばかりではないところ。低く言っておけば無難という逃げ道が成立しない可能性がある。できるなら、近似値を当てにいけたほうが良い。
おにいさんに見える方はケージくん。おじさんぽい方はユウキくん。ケージユーキみたいにしたらコンビみたいだ。
若手っぽい感じの子はいってて二十代後半て感じか。普段はあまり連れてきていないようなので、駆り出されたのかもしれない。
こちらは美容師っぽい風体だ。
上役たちからはタケと呼ばれているが、キャストたちはほぼ初対面ながらタケくんやタケシくんと呼んでいた。
このグループが殊更近い距離感を好んでいるのかもしれないが、お店のお客様へのスタンスが垣間見えた気がした。
たーくんは仕事で知り合った人も連れてくるつもりだったと言ってくれていた。今日は先方の都合が合わなかったようだが、近いうち連れて来てくださるそうだ。
お客様がお客様を呼ぶ、と言った形での集客は強い。そういう意味でも、常連のお客様とは家族や仲間のような距離感が望ましいというのは理解できた。
「今日は来てくれてありがとー。メッセージでも伝えたけど、この子が誉。かわいいでしょ? まだ体験なんだけど、たーくんたちとの席絶対楽しいからー、きっと入店になると思うんだよねー」
なるほど、ちょっとした所でも何気なく相手にとって嬉しい一言を挟むのか。露骨なお世辞と違って嫌味がない。
たーくんは「祥子は相変わらずうまいねー」と言いながらも満更でもなさそうな顔をしていた。
と、感心して呆けている場合ではない。
「誉です。皆様に楽しんでいただけるようがんばります!」
深くお辞儀をすると、口々に「硬い硬いっ、リラックスリラックス」「初々しくてかわいいねー」「おい、タケ、かわいい子だな?」なんて言い合っている。自分のことが目の前で話題にされるのは気恥ずかしい。
がやがやしながらしょーちゃんの誘導で席に通される一同。
しょーちゃんのお客様なので、しょーちゃんが仕切ってお互い自己紹介する流れとなったが、本日最初のお客様であり常連さん且つ団体さんということもあって、ママも挨拶に来た。