高額バイト
しょーちゃんに言われた言葉を考える。
少なくとも、気持ちは楽になった。
要さんは、「私はその考え方好きじゃない」と言っているが、選ぶ選ばないは別として、ままならない状況になる前に、選べる選択肢が複数あるのは安心材料だなと思った。
「まあ、祥子の言っていることも一理ある。Xも決まっていないのに不成立を前提にした話をし過ぎてた。まずはXになり得るピースがあるかを検討してからだね」
そう。まだ詰みが確定していない中で、いつのまにか詰んだ前提の話になってしまっていた。
条件に合うバイトはあるかもしれないのに。
条件が厳しいことに変わりはない。だから、先程までのやり取りで、仮に詰んだとしても道がないわけではないことが知れたのは良かった。
私は再び求人サイトを探し始めた。
「そーそー。それで、」
「あっ!」
しょーちゃんが何か言いかけていたが、思わず大きな声が出てしまった。
「どーした?」
「あの、ありました! 高額案件!」
なんと時給三千円だ。
どれ、と私のスマホ画面に顔を近づける要さん。
「ちょっと、これ……」
要さんは顔をしかめている。
え、また詐欺?
「詐欺じゃないけどさ……フロアレディーって。わかってる?」
ホールスタッフ、ってことじゃないの? フロアのレディーは、ホールのスタッフ、じゃない?
「はぁぁ……。まあ簡単にいうとホステスよ」
あんたにできる? と言いたげな目だった。
給料に比例して大変な仕事だってことくらいはわかる。でも、私がやりたくない仕事として挙げた条件は含まれていないように思えた。
「要さんやしょーちゃんのお仕事と同じ?」
「まあ、ほぼそうね。私たちはそこまでがっつり指名とかアフターとかって感じでもないけど、それでもお客様に楽しんでもらって、延長が入ったりお酒やフルーツなんかを頼んでもらえば歩合が出たりもする。そこに乗っているような仕事ならもっと稼げる可能性もある」
でもその分、努力と資質がいると言う。
指名を勝ち取り、お店にお金を落としてもらう。そんなお客様をたくさんつくる。
ただ出勤して給仕や接客の業務をこなしているだけではないのだ。
キャバ嬢の営業努力については耳にしたことがあった。
相手と場に合わせたトークやヒアリング技術の取得。戦略に基づいた営業メールは内容にも工夫が必要だ。多数の指名客の管理。出勤日、アフター、同伴、お店のイベント、自分の誕生日などのスケジュールの管理。ドレスや美容院代など自己投資のための費用も掛かる。
キャスト同士の人間関係だって良好とは限らない。
「それだけじゃない。当然だけど男性は女の子目当てにお店に来てるんだから。性的な目で見られるのは前提として、お店は注意してくれるし守ってくれるかもしれないけど、それでも酔いに任せて触られるなんてことだってある」
お店が禁止していることなら出入り禁止になるし、お客様側も律してくれることも多いから、そこまで頻度は高くないかもしれない。
でも逆に、禁じていないことならお客様を止める術はない。むしろ楽しませなくてはならない。
下ネタにだって受け流すにしろ乗るにしろ、技術を求められるのはもちろんだが、そういう環境に居続けられるかどうかが「資質」のひとつとなる。
要さんは、耐えられるかと問うている。
どうだろうか。
得意な方だとは思っていない。自ら積極的に口にすることも無い。
でも誰かが話題にしたとして、そこまで嫌悪は感じてないと思う。