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残された者として

 発車のベル。

 扉が閉じる空気が吹き出したような音。

 動き始めた重い車両が発する機械音と金属の車輪とレールの摩擦音。


 

 ゆっくりと進み始める電車。



 機械的でシステマティックなのに、情緒を感じるのは感傷的になっていたからか。


 


 去っていく電車が見えなくなるまで眺めていた私とのんちゃん。



「行っちゃったね」


「あっさりしてたなぁ……まあ、心が軽くなったってことだよね。ほまれちゃんもう帰る?」



 のんちゃんは地元なので徒歩で帰れる。

 私は電車に乗って帰らなくてはならない。帰るならそのまま電車に乗れば良いのだが。



「のんちゃん時間あるならちょっとお茶してこうか?」



 駅構内にカフェは無い。

 カフェで休んでいくことにした私たちは一度駅を出て、のんちゃんの案内で地元のカフェまで連れて行ってもらった。

 私鉄の駅から近いところだったが、移動したことでJRの駅も近くなった。


 のんちゃんは近くにミスドもマックも無いと嘆いていたが、私はその場所にしかない個人経営のカフェの方が特別感があって嬉しかった。

 ドリンクの値段はマックやミスドと比べればやはり少々お高い。

 高校生にとってはその差額は痛いのかもしれない。私も余裕があるわけではないが、一応年長者だ。ここは出してあげよう。


「え? 良いのに!」というのんちゃんを無理に押さえて支払いはまとめてさせてもらった。

 素直にお礼を言うのんちゃんは嬉しそうだったし、迷惑そうでは無かったが、正直それほど支払うことへの抵抗は感じてはいなさそうだった。

 ミスドやマックが無いことを嘆いていたのは、単にそれらの店舗が好きだっただけということだろうか。


 ほんの半年前は私も高校生だった。

 その感覚はまだ残っている。特に好きというわけでなくても、とにかくミスドやマック、サイゼ、学校最寄りのショッピングセンターのフードコートにはよく寄っていた。

 スタバには「行こう」と意識して行くのに対し、まるで帰るべき部屋のように行くともなく行っていたのがそれらの場所だ。漫然と行っていたとも言えるし、気負うことなくいられる場所だったとも言える。のんちゃんも同じ感覚なのかもしれない。



 のんちゃんに連れてきてもらったカフェはダークブラウンの木製家具とグリーンの壁紙が落ち着いたおしゃれさを演出していて居心地が良かった。

 帰り方の選択肢も増えたことだし(帰路の時間が大きく変わるわけではないのだが)、ゆっくりしていこうかなという気持ちがより大きくなる。


 のんちゃんと固有の話題も話したいが、さっきの今だ。

 マレについての共通の話題やお互いの話題が中心となるのだろう。

 別れがあっさりしていた分、残された側としてはそういう時間があっても良いと思った。


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