au revoir
「気を付けてね」
「うん、ありがとう」
私とのんちゃんは彼女の地元の駅のホームに来ていた。旅征くマレを見送るために。
マレはそんな大げさなと最初は断っていた。
来るときだって出迎えはなかったし、こちらの家の祖父母は仕事で来れないし、マレにとっては両親の待つ家に戻るだけだから旅という感覚もない。
それに、大仰にしてしまうと、やっぱり名残惜しくなってしまうなんてことをぼそっと言っていた姿が愛おしくて抱きしめたくなってしまった。
「まあ電話もできるし、動画、また撮るんでしょ? それで様子も見れるしね」
のんちゃんが明るく言った。
明るい分却って寂しそうに見えた。
「コメントつけてくれたって良いんだからね。結局たいしたコラボできなかったね。リモートでなんかやろうね」
「うん。マレのチャンネルの足引っ張んないようがんばるわ」
「あんま気負わなくて良いよー」
マレは明るく笑った。カラッとしている姿がのんちゃんと対照的だが、実はそれは、寂しさを隠すためのマレのクセだと私は思っている。私がバレエを辞めた時にはなかった、けれど、マレが留学を決めたことを伝えてくれた時には既に身につけていたと思われる、クセ。
子どもから成長期に入っていく過程、ある種の孤独と闘い、それに伴う別れを繰り返す日々の中で、彼女が身につけた、自らを守る手段のひとつだったのかもしれない。
「ほまれちゃんとも一緒にやろうって思ってて。今後動画で顔出してくからさ。前もちょっと言ったけど、双子ってのは利用させてもらおうよ。そしたらのんたちのもつられて伸びるかも。のんたちのチャンネルも大きくなって独自のフォロアー増えたらわたしの方に来るかもしれないし」
マレの言葉に、のんちゃんも少し微笑んで、頷く。
「それに、ほまれちゃんはのんにとっては太鼓の師匠になるんだよね? それはそれで師弟でやるってのも良いよね。三人でってのももちろんありだし、サンバの仲間達巻き込んでも良いよね!」
のんちゃんのスルドを教える人は私だけじゃないから、師匠ってのは大げさだけど、どうせ練習するなら、それを動画にってのは良いかもしれない。
多分自主練はいのりかほづみのスタジオになるだろうから、そこに集まりがちなメンバーにも出てもらったら楽しいかも。
私の心の裡と同様、三人とも、これからのことで頭がいっぱいだった。
「じゃ、向こう着いたら連絡するね!」
別れは確かに名残惜しいが、みんなが輝く明日への期待に満ちた目をしていた。
だから別れはある意味あっさりと、軽やかなものとなった。