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カオス

 この演目はコレオもほどほどに。ノリとアドリブの割合を大きく取ってある。


 途中、メロディが止まり、打楽器だけの時間がある。

 ここはかなりのフリータイムだ。

 通常は歌詞と手拍子の部分が終わるとメロディが始まるが、ヴォーカルが「ヘイ! ヘイ!」としばらく煽り、長めに時間を取るアレンジにしてある。


 パンデイロを軽やかにジャグリングしてステップを踏むみことと絡み、一緒に踊った。踊りながら目で合図を出し、手で「ちょーだい」のジェスチャーをする。

 みことが一瞬「まじで?」みたいな目をしたが、さすがの舞台根性。先ほどのハルたちのマラバ芸のように、パンデイロをジャグリングしながら放ってパスを出すみこと。受けるのはもちろん私だ。経験は無い。

 見よう見まねで指で受け、当然受けられずパンデイロを落としてしまうがコミカルな動きですぐに拾い、少しリズミカルに鳴らしながらみことに返す。

 ミスも演技のひとつにしてしまえば良いのだ。



 ルイの近くに行って小刻みに鳴るショカーリョの音に合わせて身体を揺らしたり、踊るようにタンボリンを演奏しているひいの動きに合わせたり。


 のんちゃんも余裕があれば踊る手はずだった。ギターは抱えたまま、アリスンとがんちゃんの間に入って一緒に踊っていたのんちゃん。


 この段階では客席も観るよりも参加する意識で、一緒になって踊っている。


 フリースタイルは継続。ダンサーは客席に混ざって観客を巻き込むことになっている。打楽器もソロプレイのように自由演奏だ。



 いのりは既に客席に乱入して観客を巻き込んで踊っている。さすが。


 フリーパートだがほづみはリズムの基礎をしっかりと担ってくれている。ルイやひいがかなり自由な感じになっているが、全体が崩れないのはほづみの音があるからだ。頼もしい。



 私も客席に混ざり込み、その場に居た人たちと一緒に踊る。

 あまり知り合いばかりをひいきしているようにならないように気にはしつつも、無視というのも不自然。私が私の感情を表すのに、感情に嘘をつくのもおかしい。せっかく来てくれている要さんや手伝ってくれたしょーちゃんと踊りたい。ふたりは先ほどと近しい位置で固まっていてくれたので突入してきた。

 踊りながら移動し、美容師軍団やキノさんが連れてきた中学生の子たちとも絡む。


 あとは。


 他にもお客様関連の観客がちらほら確認はできていた。あまり蔑ろにしたくはないが限られた時間だ。私がやりたいことに今は従う。


「マレっ!」

「ほまれちゃん!」


 サンバを踊り慣れているわけの無いマレ。

 でも、その身の裡を身体で表すことにかけては私が知るバレリーナの中でも随一だ。

 学ばせてもらう立場の私は必死にマレに食らいつく。そんなつもりはないだろうけど勝手に教える立場にさせられているマレは私に呼応するように勢いを増していく。


 その目は嘗てのように輝いているというには情熱的過ぎて、燃え盛っているように見えた。


 パンケーキを食べた日に見えた陰りはもう見当たらなかった。




 不慣れであることを前提としたユニットながら、みんなが個性を発揮していてひとつにまとまっている。

 いろんな色が不規則に混ざり合ったマーブル模様は、それ自体が一つの模様でもあるのだ。



「ごちゃまぜ」の意味を冠したユニットの出し物は、その言葉通り、会場全体を「ごちゃまぜ」にして打楽器の音に合わせて自由に踊っていた。



 ほどほどでのんちゃんはポジションに戻り、リズムのタイミングを捉えて演奏を再開した。演目の終了へと向かう段階だ。


 観客側に混ざっていたいのりと私もステージに戻る。


 最後は一糸乱れぬコレオでびしっと決める。


 不慣れで不完全で個性豊か。

 が、それぞれの不慣れさも不完全さも個性もそのままに、ひとつの完成品として、そこに在った。

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